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Unit2 世界の中の不平等や格差を数字で紐解く(G6)Part2

Unit2 社会の不平等や格差は、数量の等価形式を使用することでより明確になる

ユニット2では、公平性と発展というグローバルな文脈の中で、社会の中にある不平等や格差を数字で紐解いていきます。私たちは、何となく生活の中で不公平という言葉を使っていると思います。私たちが使っている不公平という言葉の根拠にあるものは何か?社会の中に複雑に絡み合っている問題を数字を使って事実を示すことができることをこのユニットを通じて子どもたちに体感してもらえたらと思っています。

概要

Statement of inquiry
社会の不平等や格差は、数量の等価形式を使用することでより明確になります。

Global context
公平性と発展

このユニットでは、パーセンテージ、分数、および小数を使用して、「公平性と発展」のグローバルな文脈を探究していきます。

▼ Unit2全体の流れ

Part1(リンク)では、Statement of inquiryにある社会の中にある不平等や格差はどのように生まれているのかを理解するために、実際に貿易ゲームを行い、社会の中の格差や不平等がどのように生まれるのかを体感し、数値を使って格差を明らかにする活動を行いました。

▼ 分析してきた内容

Part2では、格差や不平等さを解決するための仕組みを考え、新たな仕組みによって、格差や不平等さがどのように変化するのかを数値でシュミレーションを行い、実際に新たな仕組みで貿易ゲームを実施していきます。

形成的評価「新貿易ゲームの新たな仕組みの提案書作成」

そこで、Unit2の形成的評価の課題を次のように設定しました。

G6が行った貿易ゲームの社会にある不平等や格差を是正するために必要な仕組みやルールを考える。ただし、元からある資源や技術は変えないものとする。

▼ ルーブリック評価

▼ 貿易ゲーム仕組み改変の提案書に必要な項目

① 自分の地域の現状

② 自分の地域からみた世界にある問題点

③ 自分の地域のGDPに影響を与えているものを分析する

④ 提案したい貿易ゲームの仕組みとルールと理由を示す

⑤ 自分が提案した新たな仕組みによって期待される効果

▼ 改変前の世界の現状

世界全体で見ると、オセアニアの一人当たりのGDPが全体の過半数以上を示しており、貿易ゲームの中で格差が広がっているのが分かります。

▼ 実際の生徒の提案した改変書

生徒の提案したもので印象的だったのを紹介します。この提案書では、自分たちの地域だけでなく、全ての国が発展することで、全ての国が一人当たりのGDPを高めるためのアイデアを考えていました。格差や不平等を是正することを目的とすると、GDPが高い国の生産性を落とす考え方や共産主義的な資源を平等に分配する考え方のアイデアが出る中で、資本主義経済の仕組みの中で全ての国が発展できるアイデアは印象的でした。

またこのグラフでは、観光カードを取り入れることで、一時的には資源を投資するのでその国の資源は減少するのですが、長期的に見るとプラスになることをグラフを使って示すことができていました。

アクティビティ2「新たな仕組みで新貿易ゲーム実施」

生徒が作成したルールの改変書を国際会議で提案し、自分たちの世界にどの新たなルールを取り入れるのかをディスカッションを行いました。流れとしては、6つの地域から代表者が3分間のプレゼンを行い、提案に対して10人のメンバーで国際会議を開き、世界の不平等や格差が是正される目的を達成するためのディスカッションを行いました。

▼ 可決された新たな仕組み

① 裁判の仕組み
あおった人と暴言をはいた人を複数人(2つの地域以上)が目撃したら国際会議にかけて、可決(3分の2)されたら罰金(500ドル=5枚)を支払う

② 国連の組織と寄付文化
- いつでも寄付できる仕組みをつくる
- アクションカードで寄付カードがでたら必ず各地域から100ドル以上支払う

③ 国連の援助の仕組み
- 国連からの援助金は、各地域の一人当たりのGDPが4になるまで寄付を続ける

④ 観光でその地域を発展できる仕組み
>2000$で国を発展することができる(任意)s
>毎ターン500$+売り上げが20%UP。

④’観光カード+フェスティバル
このターンは1500$消費する。このイベントが起きる前に「国の観光」で土地を発展させていれば、自国の人数×300$の利益を出すことができる。

④’’ オリンピックで経済を発展させる仕組み
オリンピックを開催する地域は3000$支払う。
>毎ターン500$+売り上げが20%UP。
このイベントの参加料金と賞金については開催国が決める。

⑤ 内戦と移住のシステム
その地域の過半数以上の人が声をあげたら、内戦を起こして、移住をすることができる。その場合の資金、技術、資源の配分は地域で相談する。ポイントは、人口が多い地域が人口が好きない地域に移住することで、一人当たりGDPのバランスが取れる。

外国人労働者を派遣する仕組み
相手との交渉の中で、人数が2人以上いるチームが一番少ないチームに1人派遣することができる。ただし、1ラウンドで終わる。その一人は、その地域を荒らさずにその地域に服従する。ただし、きてもらう側は、資金を1枚以上渡さなければならない。

メリット:派遣する側は、1枚でも資金がもらえるし、派遣される側は仕事が捗ることで生産率が上がる。

実際にこの新たな仕組みで新貿易ゲームを行なっていきます。元々あった技術や資源の格差から広がった格差を、貿易や協定、そして新たな仕組みでどのように世界が変化していくのかを見ていきます。

アクティビティ3「新たな仕組みで新貿易ゲーム実施」

まずは、新たな仕組みを取り入れたことで新貿易ゲームを行う準備を行いました。主に、新ゲームを実施する上でのタイムテーブルをつくるチームと必要になったアクションカードの作成を行うチームに分かれました。

▼ タイムテーブル

▼ イベントカード

▼ 観光カード

そして、いよいよ新たな仕組みで貿易ゲームがスタートしました。合計3時間実施を行い、変化を分析していきます。

実際に貿易ゲームで機能していたのは、観光カードでした。観光カードを導入することで、全ての地域が観光に投資を行い、その結果少しずつ経済が発展していくきっかけになっているように見えました。

アクティビティ4「新たな仕組みで新貿易ゲームの結果分析」

▼ 新貿易ゲームの結果

ここから新貿易ゲームの結果を見て、自分たちのつくった仕組みが新貿易ゲームにどのように影響したのかを分析していきました。
▼ 分析のポイント

全体(左)/一人当たり(右)のGDPの変化の比較

それぞれの国の一人当たりの全体に占めるGDPの割合

円グラフを用いてパジャで示すことで格差を明らかにすることができました。ここで、違和感に気づく生徒が出てきました。その生徒は実際の世界のGDPの割合とこの貿易ゲームの世界のGDPの割合に大きな解離があることに違和感を感じていました。

▼ 実際の世界の一人当たりのGDPの割合



今回の貿易ゲームでオセアニアだけが実際の世界と比較したときに大きな割合を占めている違和感に気付いていました。

 

総括的評価「自分の気になる社会の不平等や格差」

ここまで、子どもたちは社会の中に生まれる格差の原因について貿易ゲームを通じて体感し、格差というものを割合(パーセンテージ)を用いて表し、グラフや表を用いて説明するスキルを育んでいきました。

総括課題では、これまでに身につけてきた数学的な見方・考え方を働かせて、一人一人が関心のある社会の中の格差や不平等について探究し、ポスターセッションに取り組んでもらいました。

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まずは、クラス全体で社会の中にはどのような格差や不平等があるのかをブレストを行いました。

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その中で、自分が気になるテーマを選び、気になった背景、問い、問いに対する仮説を探究シートに言語化するところからスタートしました。そして、探究シートに言語化できた人からリサーチに入りました。

リサーチの評価基準としては、形成的評価と同じ項目で行い、評価基準D.実生活への数学の応用で示しました。

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生徒はLev.1の自分が選んだテーマの社会の中にある不平等や格差をパーセンテージを用いて明らかに示すところからスタートしました。そして、Lev.1のリサーチが終えた人は、いよいよ不平等や格差を生み出している原因について自分が立てた仮説を検証するために、2つのデータの相関関係をグラフに表し、仮説検証を行いました。Lev.2では統計学の考え方を取り入れて数学的に検証をしていきました。

印象的だったリサーチは、男女平等を表すジェンダーギャップ指数を活用したもので、ジェンダーギャップは、歴史が長い国であるほど高くなるのではないかという仮説があったのですが、ジェンダーギャップのランキングと国の歴史の相関関係を調べたところ、仮説とは反対の結果が出てきたことでした。

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このグラフでは、縦軸がジェンダーギャップ指数のランキングを表しており、横軸が建国した年を表しています。グラフから、建国年が最近の国ほどジェンダーギャップ指数が高いことを読み取っており、必ずしも国の歴史が長い方がジェンダーギャップが大きい訳ではないことを明らかにしていました。

このように統計学のスキルを使って、自分が明らかにしたいことを表現することで相手に伝わりやすくなることを感じられたのではないでしょうか。

この総括課題では、形成的評価で使った数学的なスキルを活用して個別のプロジェクトで行うので、教員の役割としては、ガイドするような役割で生徒と1on1を繰り返す中で、プロジェクトのサポートを行いました。

プロジェクトが進んできたところで、大学の論文のような形式でレポートにまとめる課題を経て、生徒同士で最終ポスターセッションに向けてフィードバックし合う活動を行いました。

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生徒は評価基準を改めて確認しながら、自己評価と相互評価を行いました。また、相互評価では、お互いに数値の背景を説明する姿も見られました。

模擬プレゼンテーションと相互評価を繰り返して、いよいよ最終プレゼンテーションを迎えました。

日本における貧富の格差

世界における男女の不平等/インフラの不平等

障害者の差別/家庭環境の格差

医療格差

途上国と先進国の摂取カロリー違い/家庭環境格差


プレゼンの持ち時間が5分の中で、ルーブリック評価を意識しながら、数学的言語を用いて、ポスターセッションをやり遂げることができました。

Unit2では、ただ数学の公式を覚えて計算をするのではなく、公式の背景にある掴んでほしい概念的理解を深めていくことをフォーカスをしました。また、このユニットを通して、子どもたちが社会の中にある課題を数学的な見方・考え方を働かせることを通して、明らかにすることができることを感じられる学びになっていたらと思います。

個人的な振り返りとしては、ユニットを通して伝えたい概念的理解にかなりフォーカスをしてしまったので、数学的なスキルを磨きながら、概念的理解に到達できる授業設計を考えていきたいと思いました。