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Unit1 WEEK1 バイアスってなんだろう?

Unit1 他者とのやりとりにおいて認識と偏見が影響を与える

いよいよUnit1の学習が始まりました。今回のテーマは、倫理の授業とも関連してくるかなり難易度の高い授業になりそうな予感がしています。

ユニット1では、以下の知識とスキルの構造で概念型の探究を進めていきます。

Work1 

ユニットの導入では、次の1枚の写真で「See-Think-Wonder」をすることで入っていきました。

参考資料「What Are Microaggressions?」(リンク

子どもたちは、この1枚の写真を見て、次のような考えや疑問が出てきました。

▼ Think(考えたこと、思ったこと)

・質問をするのはいいけど、誤解を招くような質問や言葉はなるべく使わない方がいい。それを言うことで、相手が傷ついているから、もっと詳しく誤解がないようなコミュニケーションをするといいと思う。
・質問が解釈の仕方によって差別を訴えられる可能性があると思う。
・質問をしている人の解釈とされた人の解釈が違い、嫌な気持ちになっていると思った。
・人それぞれ解釈するから、自分は良いと思っても相手はそう思っていないから言わない方がいい。
・失礼。
・相手が嫌な気持ちになる質問をしていると思う。そういう質問をすると質問される側が嫌な気持ちになる。
・人を指差すのはいけないと思った。
・右の人は黒人差別をしていると思う。右の人が左の人をからかっていると思う。
・差別発言をしている。
・相手の立場を考えるべきだと思った。
▼ Wonder(疑問に思ったこと)
・なぜその質問をしたのか?
・質問された人はどのように受け取ったのか?
・なぜ、その黒い人にその質問をしたのか?
・なぜ、相手の気持ちを考えずに質問をしたのか?
・二人の関係性はどのようなものなのか?
・質問をした女の人は、相手が傷ついているのかを気がついたのか?
・どのような気持ちでその言葉を発したのか?

子どもたちのUnitが始まる前の考えと疑問を元にユニットを展開していくので、この子どもたちの考えの先にある学びとはどのようなものなのでしょうか?子どもたちはこれまで4-5年間PYPでの学びを重ねる中で、この1枚の写真に対して、相手の立場を考えながら、自分の考えを表現することができるようになっているのが読み取れます。

このユニットの1つの着地点として、このユニットで学んだ知識を日常生活に転移させるところまでを大切にして授業作りを行なっています。子どもたちだけでなく、私たちも自分以外の場面で起きていることは客観的に見ることができても、自分自身に起きていることだと視点が狭まってしまうことは起こりうるのではないのでしょうか?そこで、知識としての建前だけでなく、本音でこのコミュニケーションについてどのように思うのかを、それぞれの立場で考えるワークを行うことにしました。

Work2 

今の子どもたちの思考の中心には、上の写真で言うと右の人が明らかに悪い人の立場に映っています。今回のキーワードの1つが「microagression(マイクロアグレッション)」になるので、「なぜ、そのような発言が出てくるのか」についてキーコンセプトの1つである「視点」を使って理解を深めていきます。

▼ マイクロアグレッションとは(引用:日本財団ジャーナルリンク

思い込みや偏見によって無自覚に相手を傷つける言動

ここでは「無自覚に」にフォーカスして、それぞれの立場の気持ちを想像して言語化していきました。この時に、「白い糸ワーク」という手法で行いました。

ワークの様子

このワークでは、発言した人を糸で繋いでいくので、どの人の意見とどの人の意見が繋がっているのか、全ての人の意見が場に出るような仕掛けとして取り入れました。

▼ 尋ねられた人の視点

・疑われている気持ちになった。

・なんで、髪の色についていちいち聞いてくるんだろう。

・質問の意図が分からない。etc...

▼ 尋ねた人の視点

・ただ気になって聞いただけなのに。

・綺麗な髪の色だなと思って聞いただけなのに。

・褒め言葉で言っただけなのに。etc...

最初のワークでは、尋ねられた人の気持ちの視点に偏っていたので、全員に尋ねた人の立場に立って、気持ちを考えることができました。そして、両方の立場の考えを聞いたところで次のワークに入りました。

Work3

次のワークでは、改めて今の自分の立場を率直な気持ちで考えていきました。

改めて「Is that your real hair?」の発言について、双方の立場を踏まえて、この質問は良いのか、悪いのかについてグラデーションで考えてもらいました。

0%(全く悪くないと思う)50%(ケースバイケース)100%(絶対悪い)

子どもたちは悩みながらも自分自身の現在地をパーセンテージで表し、その理由を書いていきました。

こうやってパーセンテージで表してみると、良い悪いの二項対立では見えてこなかった絶妙な違いが見えてきます。

▼ 出てきた考え

100%以上>相手が良くても、自分が良くなかったらそれは単なる言い訳だから。

98%>自分で相手が言われたらどういう気持ちか考えてから言うのがふつうでふつうの人はもう少し気を使う。

95%>95%は失礼やおかしいから。後5%はそう言う言い方をするのは少し悪いかもしれないし、悪気がなく言っているのは少しだけわかるから。

80%>失礼だと思う。でもNo reactionもある。

75%>

・言った方の言い訳も分からなくないけど、他の言い方があったと思う。
・相手は無意識に喋ってしまったから。
・人の気持ちを考えないのはダメだけど、相手の受け取り方が違ったり、そのつもりじゃないから。
・聞き方を考えてもらいたい。

70%>悪気はないけどもうちょっと言い方を考えた方がいい。

68%>

・黄色い髪の姉さん。そんなこと言ってもいいと思ってんの。黒髪の姉さんもちょっと考えすぎだ!
・68%は言われて差別されているような気持ちになって悲しい。残りは気になったから聞いただけの気持ちもわかる。
・悪いけど、相手がその気持ちで言ってないから。でも言い方は考えた方がいい。

60%>言われた側は嫌だけど、言った側は気にしていないから。

32%>悪気がないならいいやんか!相手の気持ちも考えればいいやん!

1%>何で言ったらダメなの?

0%>

・別にいいと思う。別に言われてもなんも思わん。
悪口は言ってないから別にいいと思う。

このマイクロアグレッションは社会だけで起きていることではなく、学校やクラス、そして友人関係の中で自分では気づいていないけど、起きてしまうのが難しいところです。この子どもたちの考えを見た時に、このユニットのゴールは「クラス全員が100%間違っているから許せない行いだと思う!」とすることなのでしょうか。IBのLearer Profileには10の学習者像が書かれています。私はここにヒントがあるのではないかなと考えています。

さて、マイクロアグレッションについての自分の立場を明確にしたところで次のステップに入っていきます。

Work4

ここからは、今回のユニットとリンクする授業案をネットで見つけたので、参考にしながら授業を展開していきます。Unit1のTDT(教科の枠を超えたテーマ)は「Who we are」です。まずは、次の問いからスタートします。

参考:IBプログラムーTOK知の理論パワポ-柏木賀津子.pdf

 

▼ 子どもたちから出てきた意見(一部抜粋)

・I am Japanese.
・I am a boy / girl.
・I am 5/6th grade.
・I am kind.
・I am good at ...etc..

参考:IBプログラムーTOK知の理論パワポ-柏木賀津子.pdf

ここでは多くの子どもが書いていた「日本人」にフォーカスして考えていきました。

▼ グループワークで出てきた日本人のイメージ

・いい国に住んでいて優しそう

・平和な国

・着物が似合いそう

・礼儀正しそう

なかなか自分たちの住んでいる国の文化を異なる視点から見ることは難しそうな様子でした。

Work5

参考:IBプログラムーTOK知の理論パワポ-柏木賀津子.pdf

ここからは、5/6年生のミックスしたチームで英語力のバランスを考えて自分たちでチームを決めて、上の文章を翻訳する学習を行いました。辞書を活用しながら、翻訳しながらこの文章について感じたことをシェアし始める子どもたち。

・この文章どう言うことだろう。

・なんか書いてあることがおかしい気がする。

・なんで、そんなことをするんだろう。

・この国には住めないな。

自然と考えたこと、感じたことをグループ内でシェアをしていました。

参考:IBプログラムーTOK知の理論パワポ-柏木賀津子.pdf

そして、次の時間に2つの動画を見てもらいました。

・海外から見た日本のお辞儀の文化を表した動画(リンク

・海外のニュースで報道された日本の満員電車の動画(リンク

動画を見ながら子どもたちの中で、「1日中頭を下げているのって日本人のお辞儀のことじゃないかな。」「早朝と夜遅くに動くのは日本の通勤ラッシュのことじゃないかな」という話が出てきました。「と言うことは、この文章って日本人のこと....!!!!えええ!!!違う!!!」という言葉が出てきていました。

参考:IBプログラムーTOK知の理論パワポ-柏木賀津子.pdf

そして、グループで「背景の正しい理解をしていたらどのように伝えることができたのか?」について自分たちで文章を考えてもらいました。

グループによって「なぜお辞儀をするのか?」についての理由が異なっていることも興味深いです。この学習経験から子どもたちは何を学んだのでしょうか?そしてこれから何を学んでいくのか。

 

子どもたちの探究は続いていきます。