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クラス会議を通して【人権感覚を育む】クラスづくり

人生で初めてクラス担任を持つ中で、クラスの担任の役割として子どもたちに人権感覚を育めるような機会をつくる重要性を感じ始めています。

オランダのイエナプランのサークル対話

「人権感覚を育むとはどういうことか」改めて自分の中でもゆっくり考えながら、実践していきたいと考えています。そもそも人権感覚とは何かの定義を文部科学省の資料から考えてみました。

▼ 第1章 学校教育における人権教育の改善・充実の基本的考え方(参照リンク

人権感覚とは、人権の価値やその重要性にかんがみ、人権が擁護され、実現されている状態を感知して、これを望ましいものと感じ、反対に、これが侵害されている状態を感知して、それを許せないとするような、価値志向的な感覚である。

「では、人権感覚を育むとはどういうことか?」

▼ 人権感覚の育成を目指す取組(参照リンク

[自分の大切さと共に他の人の大切さを認めること]ができるために必要な人権感覚は、児童生徒に繰り返し言葉で説明するだけで身に付くものではない。このような人権感覚を身に付けるためには、学級をはじめ学校生活全体の中で自らの大切さや他の人の大切さが認められていることを児童生徒自身が実感できるような状況を生み出すことが肝要である。児童生徒一人一人が、自らが一人の人間として大切にされているという実感を持つことができる時に、自己や他者を尊重しようとする感覚や意志が芽生え、育つことが容易になるからである。

「子どもたちは人権についてどのようにして学び、人権教育を通して何を子どもたちに育む必要があるのか?」についても考える視点を調べてみました。(参考リンク

人権感覚を育むためには、次の3つの側面(1.知識的側面、2.価値的・態度的側面及び3.技能的側面)から捉えることができると書かれています。

北欧の教育現場での視察を通して気づいた日本の学校現場との違いとしては、1の知識的側面というところです。フィンランドの学校現場では、小学校段階で「子どもの権利条約」について学んでいます。

フィンランドの小学校の掲示

なぜ、小学校段階で子どもの権利について学んでいるのかを現場の先生に聞いてみると、自分にはどんな権利があるのかを知ることで、相手にも自分と同じように権利があることを知り、自分の権利も相手の権利も尊重する感覚を育むことができると現場の先生は話していました。

今私が働いている学校でも小学校3年生の時期に子どもたちは子どもの権利について学習を行なっています。

しかし、子どもの権利について知識で学ぶだけでは、人権感覚を育むことは難しく、文部科学省が示しているように、人権感覚を身に付けるためには、学級をはじめ学校生活全体の中で自らの大切さや他の人の大切さが認められていることを児童生徒自身が実感できるような状況を生み出すことが重要になります。

私自身、4月からクラスの運営を行う中で、大切にしてきたこと。苫野一徳氏の著書である『教育の力』に書かれる一文です。

<自由>と<自由の相互承認>の感度を育む

しかし、私の中で多くの葛藤が生まれてきました。私は、フィンランドの学校で、子ども中心の学びを体感で学んできました。私の中で、どこか日本の学校教育は制限をかけることで「子どもたちが自由に生きたい」と感じさせる順番に違和感を感じていた5年前。子どもたちは、自由にしっかり考えられる環境があるからこそ、自由な環境の中でたくさん失敗して、その都度何が間違っていたのかをふりかえりを通して、自由と自由の反対にあるものの違いやバランスについて学んでいけるのではないかと仮説が浮かび上がってきました。

しかし、今子どもたちが「自由に生きる力を育む」ために、子どもたちにどの程度、自由に選び、考える機会をデザインし、どの程度子どもたちに制限をかけていくのかのバランスの取り方がわからなくなってきている自分がいました。

子どもたちは、学校生活の中で、友達のことを知らない間に傷つけてしまったり、自分の主張を通すためにグループで対抗して相手が意見が言えない状況を作ってしまったりと、発達段階に応じて色々な壁とぶつかることが出てきます。この時に、学校の中で「何が正しくて、何が間違っているのか?」について一度立ち止まって、一緒に考えていくことが重要であることを感じ始めています。

また、クラスの中で個別で起きる問題も、実はクラスの中にある文化や価値と繋がっていることも多くあるなと感じています。

これからの実戦として、クラスの一人一人がよりよい関係性を育んでいけるために、ルールメイキングのプロセスを通して、人権感覚を育める機会を作っていきたいと感じています。

では、具体的にどのようにその機会を作っていくのかについて考えているときに出会ったのがクラス会議になります。

▼ クラス会議とは(参考リンク

クラス会議とは、アドラー心理学に基づく学級経営の方法で、「クラスが騒がしい」「係の仕事をやってくれない人がいる」などクラスの問題を子ども全員で話し合い、解決策を考える会議です。

これから、深見太一先生のクラス会議を導入して、子どもたち一人一人が人権感覚を育めるような実践を行なっていきます。

また、実践報告をここでまとめていきます。

第1回目のクラス会議

実はこれまでも、クラス会議のようなことは、子どもたち自身で解決していく機会を設けていました。そして、実際にクラスの困りごとを話し合いの中で、自分たちで解決できた事例もありました。

具体的には、この学級では給食の配膳において、当番制を導入するのか自主性を導入するのかで意見が分かれていました。最初はそれぞれのメリットとデメリットについて話し合いを行い、当番制のメリットとしてはスムーズであること、デメリットはコミュニケーションの機会や考える機会が減るという意見が出てきました。また、自主性のメリットとしては、友達同士で声かけをする機会が増えたり、自分から動く文化(Pay forward)が生まれる、デメリットとしては、動く人と動かない人で偏りが生まれるのではないか?という意見が出ていました。意見が分かれても、多数決で決めることなく、一旦話し合いが平行線に。

すると「何か楽しくできたらいいと思う。ゲームみたいに。」

「だったら、バケツリレーとかどうかな?」

「いいと思う!」

そして、今まで給食当番は自主性で機能していなかったのが、自分たちで考えた仕組みが導入されると、一人一人が納得感と責任感をもって取り組むようになりました。クラス会議が導入され前から、自分たちの課題を先生が解決するのではなく、解決するきっかけを届けて、自分たちで解決していくクラス文化を育んできました。しかし、日常的に会議をするわけではなかったので、クラスの中にある課題が一部の人の意見でそのままになっている現状もありました。そこで、日常的にクラスで起きている課題ややりたいことを、クラスにいる一人一人の声を聞きながら、クラスの中で必要な仕組みを作る過程を通して、人権感覚を育める機会を作っていきたいと考えています。

第1回目のクラス会議では、初回ということで、グラウンドルールの確認を行いました。

今のクラスは「論理的に考える力」や「自分の考えを言語化する力」はあるのですが「聞く力」と「実際の行動に移す力」に課題があり、子どもたちに「友達の考えを聞く価値を知る」と「考えたことを行動に移す」機会をクラス会議を通して届けていくきっかけにできたらと考えています。

早速、最近のHappy/Thank you/Niceをシェアしました。第1回ということで、最初はパスする子が多かったのですが、次第に友達のシェアを聞いて、言葉にする子が出てきました。

そして「クラスの中で、学習用テーブルだけ誰も掃除の時間にしたがらないので、当番制にした方がいいと思う。」という声も自然と上がってきました。クラスの中で困っていることを言えるということは、このクラスの中に心理的安全性があることも分かりました。そして、いつもは「絶対嫌だ〜」「当番制は嫌だ」という声が重なり合って出てくるのですが、トーキングスティックを持った人しか話せないということで、一人一人の感じたことを聞くことができました。結局この日は結論は出なかったのですが、少しずつクラスの課題についてクラス会議を重ねて行けたらと思います。

▼ 本日の子どもたちの問い

「否定と自分の意見の違いってなんだろう?」

これについてもゆっくりクラス会議を重ねながら深めていきます。

第2回目のクラス会議

子どもたちの中で、クラス会議で話したいテーマが集まるようになってきました。

この中で、本日選ばれたのは「自分たちでスキー研修の部屋割りを決めたい!」というものでした。今までは「自由に決めたい!」という多数派の意見と「色々な人と関われるように違うメンバーになるようにしたい!」という少数派の意見でぶつかり、多数の意見でそのまま流れることが多かったのですが、クラス会議をすることで変化が生まれ始めました。

本日の議題「4年生男子3人の部屋割りをどうしたら良いんだろう?」

スキー研修は3.4年生合同で行われます。意見を出してくれた子の気持ちとしては、仲のいい4年生3人で同じ部屋に泊まりたい正直な気持ちを表明してくれました。それに対して、女子が「自分には関係ない。」という風に他人事にするのではなく「4年生3人で同じ部屋になりたい気持ちはわかるけど、4年生には3年生のことを観る責任があるんじゃないのかな?」という「責任」にフォーカスした意見が出てきました。色々な意見を聞くことで、提案した男の子も「確かにまだ確定ではないけど、4年生の責任を考えると、男子3人はバラバラになった方がいいと思うけど、でもやっぱり4年生3人一緒がいいな。」という感想を話してクラス会議を終えました。

最初に、先生が男子3人は別々の部屋になると伝えることもできたのですが、クラス会議で自分たちで会議をする中で、気持ちや考え方の変化が見られる時間でした。次回はどんな議題が出てくるのか楽しみです!