Unit2 世界の中の不平等や格差を数字で紐解く(G7-9)
Unit2 社会の不平等や格差は、数量の等価形式を使用することでより明確になる
ユニット2では、公平性と発展というグローバルな文脈の中で、社会の中にある不平等や格差を数字で紐解いていきます。私たちは、何となく生活の中で不公平という言葉を使っていると思います。私たちが使っている不公平という言葉の根拠にあるものは何か?社会の中に複雑に絡み合っている問題を数字を使って事実を示すことができることをこのユニットを通じて子どもたちに体感してもらえたらと思っています。
・概要
Statement of inquiry
社会の不平等や格差は、数量の等価形式を使用することでより明確になります。Global context
公平性と発展このユニットでは、パーセンテージ、分数、および小数を使用して、「公平性と発展」のグローバルな文脈を探究していきます。
世界中の難民の移動、労働条件、栄養、および安全な飲料水の利用可能性を調べるために、パーセンテージ、分数、および小数の関係を適用します。
また、外国で難民として生活する経験について考えたり、ディスカッションしたりする機会を通して社会の中にある不平等や格差について自分たちがどのように向き合っていくのかを考えていきます。
- ・概要
- アクティビティ1 「イントロダクション」
- アクティビティ2「世界の人口とGDP分析」
- アクティビティ3「貿易ゲーム」
- アクティビティ4「貿易ゲームの分析1」
- アクティビティ5「貿易ゲームの分析2」
- アクティビティ5「貿易ゲームの分析3」
- アクティビティ6 「貿易ゲーム分析4」
- アクティビティ7 「形成的評価:不平等を是正するための新たな仕組みを考える」
- アクティビティ8「総括評価」
- アクティビティ9「ポスターセッション」
アクティビティ1 「イントロダクション」
最初のイントロダクションでは、ユニットで学習する前の思考や理解の状況を知るために3-2-1bridgeでこの探究のメッセージの中の「社会の中の不平等や格差」と「数量の等価形式」という言葉を見て思い浮かんだワード3つと質問2つと1つの比喩を出してもらいました。
▼ 社会の中の不平等や格差
「社会の中の不平等や格差」に関して印象的だったのは「不平等でかつ公平であるべき」「日本で生まれたことは、世界から不平等や格差の観点でみるとどうなのか?」「そもそも社会の格差とは何か?」「なぜ平等を目指すのか?」という言葉が出てきました。
▼ 数量の等価形式
数量の等価形式という言葉に関しては、これまでに習った単位の変換を思い出していて、疑問としてはなぜ国によって単位が異なるのかを疑問に出てきていました。
アクティビティ2「世界の人口とGDP分析」
「世界の資源が平等に分配されているのかを私たちはどのように知ることができるのか?」という問いに対して、世界のGDPを指標に考えていきました。
▼ データ
▼ リサーチ内容
① 世界GDPの合計と各地域のGDP
② 世界の人口の合計と各地域の人口
③ 各地域の世界のGDPに対する割合(%)
④ 各地域の世界の人口に対する割合(%)
地域ごとのGDPと人口の数を表にまとめたところで、「どのようにデータを編集すると、世界の中にある格差があることを知れるのか?」という問いに対して、「パーセンテージで比較する」アイデアが出てきたので、全体に対してそれぞれの地域のGDPと人口がどのような割合になっているのか計算を行いました。
次のアクティビティでは、世界でどのようにして格差が生まれ、格差が生まれるにはどのような要因があるのかを体感するためのアクティビティを行います。
アクティビティ3「貿易ゲーム」
この貿易ゲームの意図として、世界に格差が生まれているのを数値だけで分析するのではなく、現状で示されている数値の背景には様々な原因が含まれていることを体感してほしいと考えています。具体的には、先進国と途上国の間には、技術や資源、人口、それぞれの国の間にある関係性など、あらゆる要素が複雑に絡み合った結果として今、世界ではGDPの違いが生まれています。
そこで貿易ゲームでは5つの地域に分かれて、最初に技術と資源の数の条件を変えて行います。発展途上国は、技術がなく資源がある状態、先進国は技術はあるが資源が少ない状態でスタートしました。つまり、GDPを上げていくには、他の地域と交渉と貿易をしながら関係性を高めながらプレイを進めていく必要があります。
この社会では資本主義社会という設定で「資源を多く獲得した地域を勝利条件」として
ゲームがスタートしました。
▼ 貿易ゲーム中のイベント
貿易ゲームの中では、需要と供給に応じて価格が変動したり、発展途上国に国連から資源の援助があったり、国の維持をしていくために食料や水の消費を行う等のイベントが毎ターン行われます。
貿易ゲームがスタートすると、各地域間で様々な地域間で動きがありました。
▼ 第1ラウンド後
分度器がヨーロッパからアジアに渡される取引
▼ 第2ラウンド後
北アメリカがバランスの取れた世界にするためにアジア以外の地域で技術の共有を行われる。
最終的な貿易ゲームの結果はこちらになります。
▼ 貿易ゲームの結果
次回以降は貿易ゲームの結果を元に分析を行っていきます。
アクティビティ4「貿易ゲームの分析1」
▼ 貿易ゲームの結果
▼ リサーチ内容
① このデータから分かること(SEE)
② このデータから考えられること(THINK)
③ 疑問(WONDER)
④ ②で選んだ解釈から1つ選んで②の解釈を誰かに伝えるために必要な事実をデータで示す。
② 生徒から出てきたデータから解釈できること
・人数が多くてGDPが少ないと食べ物が足りなくなる
・元からの格差は大きな変化がないと変わらない。
・順位が変わっていない
・技術力が高まるとGDPを上げることができる。
・アジアに抜かされそう
・元々資源や技術を持っていることが有利である。
・元々資源がある国は右肩上がり、元々資源がない国は支出が多くてお金が減っていく。
④ 自分の解釈と解釈を示す事実となるデータを示す
▼ 生徒Aの解釈
アフリカは人数が多くてGDPが少ないので食べ物がたりなくなる。
▼ 生徒Aの解釈を説明する事実
▼ 生徒Bの解釈
元からの格差は大きな変化がないと変わらない
▼ 生徒Bの解釈を説明する事実
▼ 生徒Cの解釈
イベントの無い第1ラウンドより第2第3ラウンドの方が増加率が低い!
*ただし、物の交換などにより新たな技術を手に入れた場合は上のルールに従わない!
▼ 生徒Cの解釈を説明する事実
▼ 生徒Dの解釈
使える技術を持っていることが鍵になってくる!
▼ 生徒Dの解釈を説明する事実
▼ 生徒Eの解釈
技術や信頼のない国は-3のように$が増えていないけど、資源や同盟を組んでいる国は$が2倍以上増えている。
▼ 生徒Eの解釈を説明する事実
それぞれが同じデータを見て、読みとったことを解釈し、解釈したことを自分以外の人に説明するために必要な事実を数値(パーセント等)や使ってまとめることができました。生徒Eの信頼度もGDPに影響するのではないかという仮説も実際に信頼度のアンケートをとることで、数値で見ることで自分の推測と異なるデータが出てきているのに気づいていました。信頼度とGDPの関係性など、2つ以上のデータを比較することで見えてくる解釈を数値をもとにした表やグラフで表すスキルを高めることにもフォーカスしていきます。
アクティビティ5「貿易ゲームの分析2」
▼ リサーチ内容
① 各国の信頼値の合計は?
② 全体の信頼値の合計は?
③ 全体の信頼値における自分の国の信頼値の割合(パーセント)
④ 信頼値とGDPの合計金額に影響はあるのか?
⑤ もし影響があるとするなら、どのようにしたら影響があることがわかるのか?
① 各国の信頼値の合計
③ 全体の信頼値における自分の国の信頼値の割合(パーセント)
数値で示したものをよりわかりやすく伝えるためにどのグラフを用いるとわかりやすいのかを考えながら効果的なグラフを選んでいました。
表で表すことで、信頼値がGDPに影響を与えるという仮説があったのですが、アジアのデータを見ると信頼値が高くないのに、GDPが高い結果が出てきました。
アクティビティ5「貿易ゲームの分析3」
次にそれぞれの地域のラウンドごとの信頼値の変化をアンケートをとり集計していきました。
▼ リサーチ内容
① ラウンドごとの各地域の信頼値の合計は?
② 各地域のラウンドごとの信頼値の合計の変化
③ 信頼値とGDPの合計金額に影響はあるのか?
④ もし影響があるとするなら、どのようにしたら影響があることがわかるのか?
⑥ 他の国との間で信頼値を高めるのはどうしたらいいのか?
① ラウンドごとの各地域の信頼値の合計
各地域のラウンドごとの合計をExcelで関数を使って計算を行いました。
② 各地域のラウンドごとの信頼値の合計の変化
③④ 信頼値とGDP
実際にラウンドごとの信頼値が出たことで、GDPのラウンドごとの数値とグラフで比較を行っていきました。G7-9では信頼値とGDPに大きな相関関係は見られなかったのですが、G6のデータではいくつかの相関関係があることが見られました。
「なぜ、同じ条件でゲームを始めたのに、異なる結果が生まれたのか?」という問いに対しては、「技術や資源だけでなく、その国を担当している人も影響しているのではないか」という新たな仮説も生まれ、これは実際の国際社会で起きていることともつながっているのではないかという考えも出てきました。
アクティビティ6 「貿易ゲーム分析4」
次に一人当たりのGDPの分析を行います。一人当たりのGDPを比較することで、世界の中でどれだけの格差があるのかを知ることに繋がりました。
▼ リサーチ内容
① 実際の世界の一人当たりのGDP
② 実際の世界の一人当たりのGDPの割合を円グラフにする
③ 実際の貿易ゲームの一人当たりのGDPの変化を折れ線グラフにする
④ 貿易ゲームの結果の一人当たりのGDP(最初のラウンドと最終ラウンド)
⑤ 貿易ゲームの結果の一人当たりのGDPを円グラフにする
折れ線グラフにすると、世界の中で一人当たりのGDPの格差が広がっているのが分かります。
さらに、円グラフでまとめると、実際の世界で起きている一人当たりのGDPと貿易ゲームでの結果を比較すると同じような結果になっているのが分かります。GDPの合計を見るだけでは、この不平等さに違和感を持っていなかったのですが、一人当たりのGDPを出すことで、格差が明らかになり、数値で示すことで不平等さに気づき始めていました。
アクティビティ7 「形成的評価:不平等を是正するための新たな仕組みを考える」
いよいよ、貿易ゲームで学んできたことを整理していきます。現段階で、貿易ゲームの結果から読み取れることをスプレッドシートのSUM,AVERAGEや簡単な計算を用いて求めて円グラフや折れ線グラフで表現するスキルを学んできました。
ここからは、今回のユニットの考えるポイントでもある、この世界に格差があることを数値を用いることでより明確になることを理解した次のステップとして「今ある不平等や格差を是正するための貿易ゲームのルールを改変する提案書」の作成を形成的評価のパフォーマンス課題として出しました。このルールや仕組みを変える提案書を作成するスキルは実社会でもよく使用するスキルになります。相手に説得力を持って情報を伝えるためには、現状と問題点、問題点を解決するための仕組み、そして最後に期待される効果を数値を用いて伝えるスキルが必要になるので、今回の課題では実社会とも繋がる課題を設定しました。
実際に提案書を作成する中で様々なディスカッションも同時に行われています。一番大きなディスカッションとしては、そもそも今の社会の中にある資本主義社会を廃止して、資本や財産をみんなで共有する平等な社会を一番資源を持ってる北アメリカが提案を行いました。これにより、土地や財産などはすべてをみんなで共有し、生産されたものもみんなのものとなり、均等に分配するという考えの導入についてディスカッションが行われました。これに対して、アジアのみが、共産主義の社会にすることで、働かない人も働く人も平等に分配されることに懸念を示し、さらに共産主義の社会ではただ生産するだけになり面白くないのではないかという共産主義のデメリットも想像しながら伝えていました。
この仕組みはどれだけ働いても同じ給料が支給されるベイシックインカムの制度と重なるところもあり、人はどれだけ頑張っても同じ給料が支給される条件下で、資本主義社会と同様のモチベーションを保つことができるのかという命題が生まれました。
しかし、次の日に提案書の作成の中で、北アメリカが全世界の資源を人口に合わせて平等に資本を分配した時の社会を計算で求めることで、全体の意見を変わり、共産主義の考え方で新貿易ゲームが始まることになりました。
アクティビティ8「総括評価」
ここまで、子どもたちは社会の中に生まれる格差の原因について貿易ゲームを通じて体感し、格差というものを割合(パーセンテージ)を用いて表し、グラフや表を用いて説明するスキルを育んでいきました。
総括課題では、これまでに身につけてきた数学的な見方・考え方を働かせて、一人一人が関心のある社会の中の格差や不平等について探究し、ポスターセッションに取り組んでもらいました。
まずは、クラス全体で社会の中にはどのような格差や不平等があるのかをブレストを行いました。
その中で、自分が気になるテーマを選び、気になった背景、テーマから浮かび上がってきた問い、問いに対する仮説を探究シートに言語化するところからスタートしました。そして、探究シートに言語化できた人からリサーチに入りました。
リサーチの評価基準としては、形成的評価と同じ項目で行い、評価基準D.実生活への数学の応用で示しました。
生徒はLev.1の自分が選んだテーマである社会の中にある不平等や格差をパーセンテージを用いて明らかに示すところからスタートしました。この生徒は高齢者の貧困率を他の世代と比較したときに明らかにしていました。
そして、Lev.1のリサーチが終えた人から社会の中の不平等や格差を生み出している原因について自分が立てた仮説を検証するために、2つのデータの相関関係をグラフに表し、仮説検証を行いました。Lev.2では統計学の考え方を取り入れて数学的に検証をしていきました。
印象的だったリサーチは、なぜ高齢者の貧困率が高くなるのかを国内外の平均寿命との関係性や国の税率や社会保障費の国家予算に占める割合との相関関係を考察しているリサーチでした。
グラフでは縦軸が平均寿命、横軸がその年の高齢者の貧困率を表しており、平均寿命が延びるにつれて貧困率が高まっていると考察していました。
グラフでは、縦軸が世界の国々の税率、横軸が貧困率を表しており、傾向として税率が高い国が貧困率が低くなっていると考察をしていました。
さらに、国の予算の使われ方として、社会保障が国家予算に占める割合が高いほど、貧困率が低くなっている傾向がありそうと考察をしていました。
このように、自分が立てた問いに対して、自分なりに立てた仮説が正しいかどうかをリサーチして出てきた数値をグラフにして相関関係を考察することで、明らかになることを感じているようでした。
また、総括課題では、形成的評価で使った数学的なスキルを活用して個別のプロジェクトで行うので、教員の役割としては、ガイドするような役割で生徒と1on1を繰り返す中で、プロジェクトのサポートを行いました。
プロジェクトが進んできたところで、大学の論文のような形式でレポートにまとめる課題を経て、生徒同士で最終ポスターセッションに向けてフィードバックし合う活動を行いました。
生徒同士で評価基準に従って相互評価をすることで、今回の課題で求められていることを客観的にフィードバックをもらい改善するサイクルが生まれているように思えました。
アクティビティ9「ポスターセッション」
ユニット2では、数量の等価形式であるパーセンテージを活用して社会の中にある格差や不平等を明らかにし、統計学のスキルを使って2つ以上のデータの相関関係を考察する中で、不平等や格差の原因を探っていきました。子どもたちの中で、社会の中に起きている課題を数学的な見方考え方を働かせることで、明らかに出来ることを少しでも体感できるユニットの学びが生まれていたらと思います。
子どもたちの探究は続いていきます。