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フィンランドの教育を通して日本の教育を見つめ直す。

数学で金融リテラシー教育

Unit2の総括課題で、社会の中の不平等や格差について探究を進めてきました。

私自身も、生涯の資産形成の格差が日本全体で広がっていることに課題意識をもち、資金形成格差がなぜ起きるのかを調べてみました。

もちろん、職業による賃金格差も大きな要因としてあるのですが、資金形成をうまくできている人とできていない人では、金融リテラシーの差によって、生まれているものもあるのではないかという仮説も出てきました。

そこで、数学の授業の中で現在扱っているパーセンテージの考え方を少し応用させて、単利と複利の概念について理解する授業の設計を行いました。

チェックインワーク:単利と複利の考え方を掴む

まずは、単利と複利の考え方を理解するチェックインワークを行いました。

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生徒は、日本の平均寿命を踏まえて、直感でどちらが多くのお金をもらうことができるのかを考えました。直感ではAを選ぶ生徒が多かったのですが、ちょっと考えている人ほど敢えてBを選ぶような感じでした。

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実際に、計算をしていくと最初はやっぱりAの方が良かったと言葉にする生徒たちでしたが、計算を重ねていくうちに、Bの増加の仕方が次第に大きくなっていくことに気づき、ついにBの方がAより高くなることに辿り着く生徒が出てきました。

ここで、AとBの数字の増え方にどんな違いがあるのかを考えてもらいました。Aは、前の値に関係なく一定の数ずつ増えていくのに対して、Bは前の値に影響を受けて、後半になるにつれて変化が大きくなることに気づいていました。ここが、単利と複利の考え方の重要な部分になってくることを1つの事例でなんとなく掴めたところで、身近にある現象が単利的なものなのか複利的なものなのかについて考えてもらいました。

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この事例はLINEみらい財団「金融・情報リテラシー」の教材を活用して行いました。いくつかの事例を考えることで、単利と複利についての概念を次第に掴み始めていました。

ワーク1:お金を預けるの投資信託?銀行?

ここで、私がしくじりかけたエピソードから単利と複利が資産形成にどのような影響を与えるのかを実例から考えるワークを行いました。

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生徒に聞くと、お金をどこに預けるのかの議論で、投資か銀行のどちらにするのかで、投資はリスクがあるから銀行に預ける意見が多かったです。しかし、それぞれの資産がどのように変化していくのかを計算で求めていくと、生徒の意見に変化が生まれ始めました。そして、10年後までは頑張って計算をしていたのですが、20年後、30年後、40年後になってくると、計算ではなく代数の考え方を用いて、式から考えていきました。

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これを、関数のグラフを書くアプリに入れて、どのような増え方をするのかをみていきました。

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ワーク2:奨学金の利子率って大事なの?

次のワークでは、これから大学進学を検討する際に、学費を払うためにどのような奨学金を選べばいいのかを考えていきました。最近では奨学金の利率が下がってきているので、もしかするとあまり考える必要がなくなってきているトピックかもしれないですが、複利の世界では、小さな数でも何年もかけて返済していくと大きな違いになることを体感してもらうワークを行いました。

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このワークでも、利率で見ると1.5%と0.07%ですが、これを20年かけて返済をしていくと違いは大きくなることが分かります。このお金を借りて、分割で返済することは、これから先の人生でも何度も出会うことになると思います。複利の世界では、年数がかかればかかるだけ利子が大きくなることを学んできたので、お金をどのようにして返済していくのかを考える時に、一括で返済するのか、敢えて分割で返済するのか、複利について学んでいるのと学んでいないのとで選択も大きく変わってくると思いました。

レッスン後に、私がiPadの購入の返済を2年間かけて分割で支払い、その利息を計算して、分割払いやリボ払いの背景で動いている数字について理解ができたからこそ「もったいない。」という言葉が出てきたのかと思いました。

ワーク3:どこに投資する?

まだ、期待値という概念がない中で、生活経験の中で何が得で何が損なのかを学んでいると思います。例えば、お祭りに行ってくじ引きがあったときに、商品の価値とくじ引きの金額、残りの景品の数から総合して、くじ引きをするのかを考えると思います。このときに、数学的に確率も参考にしながら総合的に考えることで1つの判断材料になると思います。

Q.  100万円をある投資した1年後、以下のリターンがあります。( )内は確率。

A.「80万円(1/5)」「100万円(1/5)」「120万円(1/5)」「150万円(1/5)」「200万円(1/5)」

B.「0円(1/5)」「100万円(1/5)」「150万円(1/5)」「250万円(1/5)」「300万円(1/5)」

C.「80万円(1/5)」「100万円(1/2)」「120万円(1/10)」「150万円(1/10)」「200万円(1/10)」

D.「0円(1/10)」「100万円(1/2)」「150万円(1/10)」「250万円(1/5)」「500万円(1/10)」

最初の考えでは、AとDを選択する人が多く、Aを選択した人は一番リスクが低いので選択しており、Dを選択した人は0円になる確率は1/10と確率が低い中で、9/10は損しないで、儲かる可能性が高いという理由を考えていました。

そして、リスクとリターンのマトリックスで分析することで、思考の整理と現在の自分の考えの立ち位置を確認したところで、期待値という考え方を用いることで再検討をしていきました。

▼ 期待値の計算結果

A. 130万円

B.  160万円 

C.  103万円

D.  165万円

この結果を見て、改めて自分がどこに投資をするのかと期待値で出てきた数字をマトリックスで整理すると次のような変化がありました。

期待値を基に考えることで、考えが変わった人もより、リスクと期待値を考えることで自分の考えをより固めた人もいました。

ワーク4:宝くじって得なの?損なの?

次に、前回の授業で学んだ期待値の考え方を応用して、宝くじは得なのか?損なのか?という問いを期待値の考え方を基に考えていきました。子どもたちは直感で宝くじは損であるという感覚を持っていました。

問い

・なぜ宝くじは損なのか?

・宝くじは買えば買うほど得になるの?損になるの?

実際に期待値を求めていくと149円になることが分かり、期待値から考えても損であることが分かりました。そこで「300円の宝くじを買って7億円が当たる可能性があるということはローリスクハイリターンなのではないか?」これは、前回のマトリックスでいうと左上の一番投資をする価値があるゾーンだけど、どうかな?と話すと1枚くらいなら買ってもいいかなという考えも出てきました。

問い

・高額当選の都道府県はどこか?それはなぜか?

・人数が多いほど高額当選が多いということはたくさん買ったほうがいいの?

実際に東京、大阪の大都市で高額当選が出ており、たくさん売れるほど高額当選の数が増えるということは宝くじはたくさん買うほうが得なのか?ということについて考えていきました。そして実際に計算して考えていきました。

実際に計算してグラフにしてみるとこのようになりました。

「この増え方は複利的な増え方のようなグラフになっている」と気づいて、買えば買うほど宝くじは損すると考えていました。実際は単利的な増え方なのですが、買えば買うほど損するということは理解していたように思えます。

こういった金融リテラシーを高めていくために、社会とか家庭科とか数学とかいう教科の枠を超えて実社会と繋げながら学んでいくことで、子どもたちにとって数学を学ぶ意義について感じられるのではないかなと思いました。