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ボードゲームで数学

ボードゲームで数学。海外の学校現場の授業で用いられるボードゲーム

 

どのようにボードゲームで授業を展開していけばいいのかを考えていたときに、参考になるサイト(リンク)を見つけたので、ボードゲームで数学を実践してみることにしました。

カリキュラム

夏休み明けて最初の1週間ということもあり、思考のウォーミングアップも兼ねて取り入れてみることにしました。また、国際バカロレアの数学では4つの評価基準が定められており、4つの評価基準がどのようなものなのかを確かめるために、4つの評価基準を参考にしながらカリキュラムを考えてみました。

「知識と理解」では、ボードゲームをするにあたり、相手の戦略によって毎回状況が変わってきます。そのときに、自分が知っている戦略を応用しながら、変化する状況に効果的に対応できているのかを自己評価します。

「パターンの探究」では、何度かボードゲームをプレイする中で、コツのようなものを掴む感覚が出てくると思います。そのコツをパターン化して、「勝つパターン」や「負けないためのパターン」を言語化(一般化)して説明することができるかを自己評価します。また、自分がこれまでに学んできた数学的な知識や考え方をボードゲームでも応用できるものを見つけ言語化できるかどうかを自己評価します。

「コミュニケーション」では、説明書に書かれている複雑な説明を自分の言葉でまとめ、ルールを知らない人に適切な表現を用いて説明できるかどうかを自己評価します。

「実生活への数学への応用」では、国際バカロレアで目指してる「10の学習者像」や「ATL」の中で、ボードゲームを通して育まれる、或いは磨くことのできるスキルを特定し、言語化することができるかどうかを自己評価します。

最終的なアウトプットしては、小学4年生でも分かるようなボードゲームの解説書(ルール、戦略、育まれる学習者像とATL)の作成を行います。そこに向けたカリキュラムがこちらになります。

最初は「戦略はない。すべて運だ。」と話していた子も、ゲームを重ねるうちに、思考する時間が長くなってきます。初めてプレイする人と何度もプレイする人で勝率が変わってきたり、どのボードゲームをプレイしても勝率が高い子が出てきたりと、他カードゲームにはない運よりも思考スキルやマネジメントスキル、観察力、論理的な思考力が求められることを体感し始めているようにも感じます。

説明書を読み解き、解説書を作る

プレイしてみてルールがわかってきたところで、まだゲームを知らない小学生にルールを分かりやすく伝える解説書とボードゲームを通して、身につくことができると考えられるATL(Approaches to learning )とLP(Learner Profile)についてまとめるワークを行いました。

ゲームやチームによって、伸びるATLは異なるのですが、印象的なスキルとしてはコミュニケーションスキルです。PYLOSを選んだチームでは、社会的なインタラクションのスキルが伸びることがコミュニケーションスキルの中に位置づけられていました。これは、ボードゲームを学習に入れた1つの目的でもあるのですが、実際に社会に出ると、自分や自分たちの解釈や計画だけでは、他者との関係性や事業はうまく進んでいかず、相手や社会の動きや変化に合わせて、コミュニケーションを取るスキルが求められます。子どもたちはボードゲームを通して、こうした社会的なインタラクションのスキルが身につくことを感じて、言語化しているのが印象的でした。

対戦表を考える

そして、いよいよボードゲームを行なっていくのですが、ボードゲームをするにあたり、対戦表が必要になってきます。

対戦表の条件を小学6年生の子どもたち(10人)に伝えて考えてもらいました。

▼ 対戦表の条件

① 5つのボードゲームを1人2回ずつプレイする。
② できるだけ自分以外の9人と対戦できるようにする。
③ 1つのボードゲームのプレイ時間は10分。(総試合数は1人10試合×5つ=50試合)
④ 5つのボードゲームに空きがないように設計する。

大人でも考えるのが難しい条件の中で、これまでに学んできた知識を生かして対戦表の設計が始まりました。

▼ 設計するのに必要な数学的な考え方(第6学年)

(2) 起こり得る場合に関わる数学的活動を通して,次の事項を身に付けること
ができるよう指導する。
(ア)次のような知識及び技能を身に付けること。
ア起こり得る場合を順序よく整理するための図や表などの用い方を知ること。
(イ)次のような思考力,判断力,表現力等を身に付けること。
ア事象の特徴に着目し,順序よく整理する観点を決めて,落ちや重なりなく調べる方法を考察すること。

まさに、学習指導要領に示されている、起こり得る全ての場合を適切な観点から分類整理して,順序よく列挙できるようにする数学的なスキルが求められます。

ちなみに、子どもたちは、学校で場合分けや組み合わせの学習は行なっておらず、これまでの生活経験を組み合わせて、この問題を考察していきました。

一般的な学校の授業では基本的な数学的な知識・技能を身につけた後に、数学的な活動を通して日常的に応用していく問題解決的な学習に取り組むという順番で学習が展開されると思うのですが、私の今回の授業のケースでは「どのように数学を活用すると、複雑な事象を落ちや重なりが生まれないように整理することができるのか」を考える問題を通して、数学の良さや必要性を感じる機会を授業の中で設計することを大切にしました。もしかすると、気付いたら数学的な考え方を活用して問題解決をしている状況を授業の中で自然と作りたいのかもしれないです。

実際に子どもたちから出てきたアイデアはこちらになります。

イデア

この生徒は、2つのチャートを作成していました。1つ目は、10人の生徒一人一人にイニシャルをつけて、勝敗を記録し、2つ目は、5つのボードゲームにもそれぞれ番号をふり、どのボードゲームをどの生徒と対戦したのかを記録できるような表の作成をしていました。ここでは、誰と誰が対戦するのかまでは考察されておらず、その時の状況を見ながら重なりが極力生まれないように対戦相手を決めていくアイデアでした。シンプルに整理することはできますが、対戦相手の重なりは高まりそうなアイデアです。

イデア

この生徒は、生徒をイニシャルで表記するよりもシンプルに番号を振るアイデアを考えていました。そして、それぞれの生徒の勝敗を◯と×で表記していくアイデアを提案しました。そして、ここでレベルが上がったのは、対戦相手の組み合わせも重なりが起きないようなアイデアを提案していました。

この考え方では、整数がもつ奇数と偶数という概念を活用した考えを提案していました。まず、10個の数字(生徒1-10を振り分けた数字)を奇数と偶数に分けるという前提で話が展開されていきます。奇数と偶数が重なりが生まれないようにするために、ある数を固定して重なりが起きないように、動かしていきます。

5試合目までは、偶数と奇数が重なりが起きないような対戦表が完成しましたが、6試合目以降は同じ対戦相手になってしまうことに気づいた子どもたち。偶数と奇数に分けて考えることで、奇数組と偶数組は重なりが起きない組み合わせができたのですが、偶数同士、奇数同士で対戦する組み合わせまでは到達できませんでした。私の中では、ここまで考えたら半分は重なってもいいのではないかなと頭をよぎりましたが、子どもたちの思考は落ちや重なりができるだけ起きないようにするために考え続けていました。

イデア③ 2つの円で考える

こちらもアイデア②と似ているのが、10個の数字を1〜5と6〜10の2つのグループに分けて2つのグループを円のように周して対戦表を考えていましたが、同じく6試合目以降で重なってしまう壁にぶつかっていました。

どうしても6試合目から重なりが出てしまう課題を解決できないかどうかを考えていると子どもたちから最終的に出てきたアイデアがこちらになります。

2つの円ではなく、1つの円にしたらいいのではないのかというアイデアです。この考え方を応用すると...

こちらも6試合目以降で重なりが出てきてしまいます。今回の課題は、今回の授業で出てきたアイデアを組み合わせてクラス全体で対戦表を作ることです。

1つの課題に対して、一人一人が多様な考えを共有する中で、様々な考えが比較しながらブラシュアップされたり、2つのアイデアが統合する瞬間があったり、まさに多様な考えを子ども同士で、それぞれが感じている価値をシェアしながら、練り上げる瞬間が多く生まれる授業になりました。

対戦日

昨日一人一人から出てきたアイデアを最終的にまとめてきてくれました。昨日までの課題である重なりが起きないような対戦表を考えてきてくれました。早速、どのような仕組みで行うのかをクラス全体に説明し、試合が始まりました。

お互いにルールがわかる人同士でルールの確認を5分間行い、10分間の試合を行いました。

ゲーム①

友達の作ったルールや戦略を見てプレイを行います。

ゲーム②

ゲーム③

ゲーム④

ゲーム⑤
リフレクション

ゲームはこれから後半戦を迎えるのですが、G7-9では、トーナメントを終えて振り返りを行っています。
振り返りの項目は6つ(4つ紹介)です。

ボードゲームのルールをどのように理解したのか?
... 世の中には自分が知らないルールで溢れいますが、社会に出て知らないルールと出会ったときにどのように知らないルールや仕組みを理解できるのかを知る。

・ルールを読んでもわからなかったところは実戦でやってみた。
・説明書を読んで不明なところは実戦して理解した。
YouTubeでルールの解説を見た。
・説明書を読んだり、わからないところは誰かに教えてもらった・
・実戦、説明書を読む
・説明書を読んである程度わかったら実際にゲームをプレイし、プレイ中にわからないことがあったらまた説明書を読んで理解した。

② 自分が担当したボードゲームの戦略(パターン)をどのように発見しましたか?
... 私たちは社会の中の決められたルールの上で生きていかないといけないこともあります。受験や就活などもその1つですが、その上でどのように戦略やパターンを見つけることができるのかを知る。

・何度もプレイして勝った方と負けた方を比較してなぜ勝ったのかを考えて発見する(分かっていてもそのとうりに動かせない!)
・勘>勘を磨くには実戦すればいい
・こうしたら強いと思う的なのをゲームをしてる最中に考えてそれを試すっていうのを何回か繰り返せば戦略が見つかると思う
・どう駒を動かしたら負けるのかや、勝つためのパターンを実践して戦略を発見した。
・ゲームをプレイする中で、絶対に勝てない方法や勝ちに近づく方法を探りました。
・勝負がついた時になぜ負けたのか、なぜ勝ったのか、何がよかったのか振り返って戦略を発見した

③ 自分が知っているルールを知らない人に説明するときに難しかったこと
... 自分が知っていることを、自分の解釈で相手に伝えることの難しさ...

・言葉にすること。実際わかっていても言葉で伝えようと思うと伝わらなかったり、なんて言っていいかわからないことがあった。結局実践を通してわかってもらう!
・自分がわかっているから相手もわかっていると思って細かいところを教え忘れること。
・相手が何を理解しているかわからない
・自分はどういう風にゲームが進んでいくかのイメージがあったけど、他の人は全く何も知らない状態だったから絵とかを使わず言葉で伝えるのが難しかった
・自分はそのボードゲームをプレイした事があるから、ルールを分かるけど、相手はプレイしたことがないから、難しかった。絵や実践してルールを説明するのは、相手にとって分かりやすいと思うけど、言葉で表現するのは難しかった。
・言葉で伝えること(口で伝えること)が難しかったです。実際にやりながらの説明だととても説明しやすいけど、口だけだと説明をする時に理解に差がうまれる(?)から難しかったです。

ボードゲームを通してどんなスキルを身につけましたか?(具体例含む)
... ボードゲームをプレイしているときに、私たちの脳内ではどんなことが起きていたのでしょうか?

・Thinker:相手がなぜそこに置いてどこに置いたら負けるなど同時にいろんなことを考えなくてはならないから。相手がどこに置くだろうと先を読むことも必要。
・Reflective:勝ち負け関係なく、なんで負けたのか勝ったのか振り返ってみることで次、同じ様なことを繰り返さないように振り返ることが大切・
・一回、駒を動かすにつき、相手がどう動くのかや自分が置いた時の影響を考える必要がある。(先を読む力、予見力)
・相手が動かすたび、ボードゲーム全体を見て考えないといけない。(観察力)
・自分がこう動かしたら相手はこう動かしてくるだろうなと考えるスキルが身についたと思う
・勘(=判断力)が鋭くなる>相手の作戦を読む
・考えて動くスキル。このボードゲームは適当に動かすだけだと負けるから相手の動きを予測して次どうするべきかを考える。

今回ボードゲームを通して体感して欲しかった「社会的なインタラクティブ」について、④の振り返りから自分だけではなく、他者との関係性の中で常に自分自身の戦略を考え続けないといけないことを体感しているように思いました。