日本人からみたフィンランド教育の課題
「フィンランド教育=教育のユートピア」いつしか、このようなイメージが全世界で広がっているように感じます。実際にフィンランドの学校現場で6ヶ月間のインターンを通して見えてきた「フィンランド教育のウソと本当」(◀︎クリック)について前回のブログでまとめてみました。今回は、現地の先生から聞いた、教育の課題感を元に、日本人から見たフィンランド教育の課題について、まとめていきたいと思います。
1. 高校入試が存在しないことによる不平等
フィンランドには、高校入試が存在しません。高校入試が存在しないことによるメリットが注目されていますが、もちろんデメリットも生まれています。メリットとしてあげられるのは、高校入試が存在しないことで、教育の目的が「テストの成績」のために学習をするのではなく、「自分の人生をよりよくする」ために学習を行うようになります。実際にフィンランドでは、学習が苦手であることが、自己肯定感の低下に繋がっていないように感じます。
「では、高校入試が存在しないことによる弊害はないのでしょうか?」
ここで一つの疑問が浮かんでくると思います。
「高校入試が無ければ、何を基準にして合否を決めるのでしょうか?」
実はフィンランドでは「中学校の成績の内申点」のみで中学卒業後の進路が決まります。卒業後は、普通科の高校と職業専門学校に半分ずつの割合で進学していきます。日本と同じで普通科の高校には、都市部においてはランク付けがあり、中学の内申点が高い生徒が偏差値の高い高校に進学することが出来ます。ここで、問題になっているのが、各中学校によって内申点の基準が異なるという点です。異なる先生が、評価をするので平等に内申点を与えることが難しくなっています。しかし、内申点に対するクレームが言われることはほとんど無いようです。
「なぜ内申点に対してクレームが生まれないのか?」
● 学校の先生や学校自体が信頼されていること
●「偏差値の高い学校に「入学すること=その子の人生をよりよくする」という考え方ではなく、どの学校に進学しても「自分がどう生きたいか?」「何をしたいのか?」そこに向けて学ぶことが人生の価値を決めるという考え方が浸透していること。
結局は、「自分の意志が人生を豊かにする」ことを入試の例を聞いて感じました。
2. いじめ対応
「フィンランドではいじめは存在しないのか?」
フィンランドでも、いじめは存在します。日本と同じように、近年ではネット上でのいじめが増えてきています。
「フィンランドでは、いじめに対してどのような対応を行なっているのでしょうか?」
フィンランドの学校には、いじめ問題を解決するために、多くのカウンセラーが配置されています。
・学級経営の専門家(スクールソーシャルワーカー)
フィンランドでも、1人で20人の生徒をマネジメントすることはとても大変です。20人でも大変なの?と日本人の方は思うかもしれませんが、日常的に子を尊重した指導を行なっているので、日本のように統率されることに慣れていない子どもたちです。日本人から見ると、フィンランドの学校は学級崩壊をしているように見えるかもしれません。もちろん、時に授業が成り立たなくなることもあります。しかし、この状況が続くことはなく、co-teaching(2担任制)を導入しているので、一人で抱えることが無いです。そして、2人の先生でも対応が難しい場合は、学校によっては学級経営の専門家のような人が教室に入り、「今教室に起きている課題」について、ワークを通して子どもたちに考えさせる専門家の配置も行なっています。
・テンパリ(スクールカウンセラー)
子どもは、日常的に悩みを抱えて生きています。小さな悩みでも気軽に相談できるのがこのテンパリさんです。学習のことだけでなく、家庭のこと、プライベートのことも相談に乗ってくれます。悩みが小さいうちに相談する選択肢を持つことは、大人になってからも大切な力と考えられています。フィンランドでは、学校や社会にもスクールカウンセラーが配置されており、大人も日常的に相談できる文化があります。悩みを聞いてもらえるだけで、気持ちが楽になることって大人でもありますよね。相談することは恥ずかしいことでは無いと教えてくれる大切な先生です。
・リソースティーチャー(修士号を持った非常勤講師のような先生)
学習支援が必要な子どもを個別指導するために配置されている先生。学習がわからなくなることで、子どもは授業中に落ち着かなくなります。子どもの学習を個別に行うことで、「子どもの学習権を保証」し、子どもは学校に行く価値を見出し、安心して学校に通うことができます。日本のように、勉強がわからなくなることで、いじめや不登校に繋がることを軽減している大切な先生です。
このように、フィンランドでは学級担任の負担を増やすことなく、いじめ問題や不登校問題に予防的に対応しています。しかし、これだけ外部のリソースに頼っていると、学級担任は授業だけに集中でき、いじめ問題等には他の専門家に責任転嫁されている現状も感じました。実際に子どもたちの中には、「担任の先生=一番信頼できる大人」という認識があるので、授業が終わるとすぐに先生は職員室で休憩していると、なかなか相談しずらいと話している生徒もいました。
大切なことは、外部のリソースに頼りながらも、一番子どもたちと関わっている担任の先生も子どもの相談に乗りやすい環境づくりだと学びました。
3. 家庭教育力の低下
「フィンランドでの家庭教育の現状は?」
もちろん全ての家庭ではありませんが「学校=学ぶ場所」という点で、フィンランドの学校はとても信頼されているので、家庭での教育力が下がっている現状を学校の先生は話してくれます。
実際にフィンランドの旧首都Turkの小学校を訪問した際に、ある学級担任の先生から相談を受けました。
「子どもが社会で自立する力を育むことが学校だけの役割になっている。」
どんな問題が起きているかというと、クラスの中に学習が苦手な子どもが数人いました。担任の先生は、一人一人に合わせて宿題の設定を行なっていました。しかし、家で宿題をするように伝えても、親が全く学習に無関心なので子どもに宿題の必要性を伝えることはありません。そして、子どもは家に帰ってからは、ずっとゲームをして過ごしているみたいです。学校だけで、一人一人の学力を保証するには限界がある。やはり、子どもと多くの時間を過ごす親と子の関わりがとても鍵になってくるとフィンランドの先生は話をしていました。
日本でも、フィンランドと同じような動きがこれから始まろうとしています。
・センター試験廃止
・スクールカウンセラー・スクールソーシャルワーカーの配置
・教育の無償化
しかし、大切なことは制度だけを導入するのではなく、この制度を取り入れることによって私たち、子どもと関わる大人が「どのようにして子どもと関わっていくのか?」「何のために学ぶのか?」という問いに対する答えを持つ必要性があります。
本日のブログでは、日本人からみたフィンランド教育の課題についてまとめてみました。
ここまで読んでいただきありがとうございました。
最後に案内です。
今私は8月に行われる東京でのフィンランド教育についての講演に向けてブログを書いています。思考の整理はもちろん、目的は私が学んできたことを講演以外の手段でも伝えていきたいと思っています。
▼講演の詳細はこちらです。
明日のブログも楽しみにしていただけたらと思います(-^-^-)
モイモイ!!!