学びのセーフティーネットが充実しているフィンランド教育
「フィンランドでは、プレスクールから大学院まで無料で通える」
1. はじめに
本日のブログで考えたいのは、
「学費を無償化にすることだけで、子どもが安心して学習できる環境が整うと言い切れるのか?」「そもそも教育の目的とは何なのか?」ということです。
私は、学費を無償化にすることよりも大切なことがあると考えています。
フィンランド教育の目的は「自分らしく、幸せに生きること。」とてもシンプルです。
実際にフィンランドの幸福度は、世界で1位になっています。日本は54位です。PISA学力の成績は変わらないのですが、人々の意識には大きな違いが生まれています。
「人が幸せに生きるために、フィンランド教育で大切にしていること」を本日のブログでは紐解いていけたらと思います。
▼今の日本の教育課題
「ある子にとって、安心して学ぶ環境が整っていないこと。」
*不登校が14万人いるが、何も解決できていない現状がある。
「学びとは、競争であり、みんなと一緒に学習するものであること。」
▼制度的な課題
・学級担任の負担が大きく、一人一人のニーズに合わせた支援が難しい。
・9年間の義務教育で、どの子どもも自動的に卒業資格が与えられること。
・フリースクール等の学びの場が認められていない。(保護者の多額の費用負担)
・高校は大学入試のための予備校であり、目的なく大学に進学する人が多い。
・キャリア教育が不十分にも関わらず、1度決めた専門学校のコース変更が難しい。
・大学は、休学に費用がかかる大学や、学びの延長には学費が必要。
・新卒採用・終身雇用により、中途採用や大学卒業後の学び直しが難しい。
「では、フィンランドの教育ではこのような課題は存在するのでしょうか?」
・義務教育段階では、支援が必要な子に合わせて先生の配置。
・10年生という学び直しのシステム
・中学校の中にフリースクールのような居場所。
・高等学校は自分のペース(2年〜4年)で学習。
・専門学校では、途中でコースの変更も柔軟に可能。
・大学も自分のペース(4年〜7年)で学習。
・一度職についても、専門学校で学び直しが簡単、キャリア変更も比較的容易。
一つ一つ解説を交えながら、見ていきましょう
2. フィンランド教育の余白
・義務教育段階では、支援が必要な子に合わせて先生の配置。
フィンランドでは、校長先生の裁量で、支援が必要な子どもの人数に合わせてTA(Teaching Assistant)や修士号を取得している先生(Resource Teacher)を採用することができます。
例えば、移民の生徒や学習障害があり、ニーズを抱える生徒の人数に合わせて、少人数学級や個別指導を取り入れることができます。ここでは、早い段階(就学前教育)から、個別のニーズに合わせて支援を行う体制が整っているので、学力格差が生まれにくい構造になっています。
・10年生という学び直しのシステム。
フィンランドでは、「10年生」という9年間の義務教育終了後に、生徒の意思で1年間の学び直しができる制度があります。日本で「10年生制度」は留年のようなネガティブな印象で捉えるかもしれないのですが、「一人一人のペースに合わせて学ぶ」考え方が受け入れられているので、ネガティブな印象は持たれません。この1年間は生徒にとっては「余白」の時間になります。
▼10年生制度を利用する生徒の目的
・普通科の高校進学に向けて、義務教育の学習の復習を行う。
・専門学校のコース選択を考える時間。
・特別支援のニーズのある生徒は、ゆっくり学び直す時間。
この「10年生」は専門学校の施設内に設置されているので、10年生として在籍しながら、専門学校のコースを体験できます。また、ここでの学習は、高校や専門学校の授業としての単位にも変換されるので、半年間10年生に在籍した場合でも、3年間で卒業することも可能になります。
・中学校の中にフリースクールのような居場所。
フィンランドの学校の中には、少人数教室が設けられています。日本の少人数教室と異なる点は、障がいの有無に関わらず、「少し休みたい」「少人数で学習したい」と生徒が感じた時に通える場所になっていました。もちろん、先生は教員免許を取得しているので、教育の質は保証されています。日本では、不登校数が年々増加傾向にあり、先生を志望する 教育学部生は年々減ってきています。この状況下では、不登校の子どもを学校で預かることは難しい現状があります。しかし、フィンランドでは不登校になる前に、学校の中にその子が落ち着ける環境を、まずは整えてあげる体制があるので、日本でいうフリースクールが学校内にあるような感じでした。
・高等学校は自分のペース(2年〜4年)で学習。
フィンランドの高等学校は、日本の大学と同じように単位制の学校です。普通科の高校に通う生徒のほとんどは大学進学を考えているので、生徒は大学入試に向けて学習に取り組むことになります。日本との違いは、全員が一緒に高校を卒業して大学進学を目指すのではなく、生徒は一人一人にライフプランがあるので、2年で卒業をして大学に進学する生徒もいれば、4年間でじっくり学んで大学に進学する人もいます。また、高校卒業後は、ギャップイアーで1年間インターンや旅行を楽しみ、その後大学に進学することも一般的に行われています。また、授業には必須科目と選択科目があり、自分で時間割の作成を行います。日本にない授業としては、哲学や心理学のような授業も行われていました。高等学校は、「自分が大学で何を専門的に学びたいのか」「大学卒業後はどう生きたいのか?」を考える時間でもあります。
・専門学校では、途中でコースの変更も柔軟に可能。
フィンランドの専門学校では、進学後もコースを柔軟に変更することができます。例えば、最初はヘアーデザインのコースを専攻していたが、途中でビジネスのコースに移ることも可能です。この専門学校では100以上の資格が取れるため、進学後も「自分が何をしたいのか」と向き合いながら、進路を再選択することができます。
・大学も自分のペース(4年〜7年)で学習。
フィンランドの大学は研究機関です。大学では、学びたいことをとことん追求できる環境が整っています。日本では大学生活を考えると、大学に4年通って学ぶイメージが強いと思います。しかし、フィンランドでは、柔軟に在学期間を変更ができるので、将来に向けて海外でのインターンや留学を行う学生が多くいます。「自分のやりたいこと」を探求できるのが大学時代の醍醐味と話をしてくれました。
・一度職についても、専門学校で学び直しが簡単、キャリア変更も比較的容易。
専門学校では、16歳から60歳までの人が同じ教室で学んでいることもあります。何歳になっても学び直せる環境や価値観があるのがとても魅力だと感じました。
▼学費に関して
1)大学生と同じ年齢の場合・・・無料
2)成人していて、就職していない・・・無料
3)少所得・・・学費補助(給与に応じて金額が定まる)
4)働いている・・・働きながら資格を取り、次のキャリアに進む
この4番目の大人になっても、働きながら資格を取り、学び続けるのが素敵だと思いました。ここで面白いデータを1つ紹介します。(労働政策研究・研修機構(JILPT)より引用)
フィンランドの若年者と成人は熱心な学習者である。20 歳~29 歳の 42%および 30 歳 ~34 歳の 15%が教育に参加している。この二つの数字は、明らかに OECD で最も高い。 この数字は、優れた教育を受けたいというフィンランド人の願望と、確固とした成人教育制度を反映している。成人全般の教育・訓練への参加は高レベルにあり、2013 年に行れた EU 労働力調査では、人口のほぼ 4 分の 1 が調査前月に教育・訓練に参加していたと報告している(EU28 カ国は 10.5%)。
3. 最後に
このようにフィンランドでは、大人になっても「自分の学びたいこと」学び続けられる環境が整っていました。
ここまでまとめてきた制度は全て、国民は全て無償で教育を受けることができます。しかし、無償だけでなく、国民一人一人が「幸せに生きる。」ために「何をしたいのか?」をゆっくり考える「余白」の時間が多く存在していました。
「一人一人の歩む人生は違っていていい。」
大枠の「無償化」だけでなく、「国民が幸せに生きる」ための教育にこれから少しずつシフトしていくのが楽しみです。
ここまで読んでいただき有難うございました。
最後に8月に行うフィンランド教育に関する講演の案内です。
▼講演の詳細はこちらです。
明日のブログも楽しみにしていただけたらと思います(-^-^-)
モイモイ!!!