教員採用試験がないのに、教員の質が高い理由とは?
フィンランド教育が注目されている理由を現地の先生方に聞いてみると、「Opettaja:先生」という言葉が返って来ます。これは、先生自身が教育のプロとして誇りを持っていることを表しています。そして、フィンランドの先生は、国や地域、保護者から高い「信頼」を得ています。しかし、フィンランドには、日本のように教員採用試験のような試験は存在しません。
「ではどのようにして、教員を大学で養成・採用し、教員の質を高めているのでしょうか?」
1. 教育学部に入学するまで
1. 入学試験に関して
フィンランドでは、大学の教育学部は倍率が十数倍の地域もあります。将来教員となる学生には、高い学力に加えて面接を通して厳しく審査します。
▼具体的な教育学部に入るまでのステップ(約13倍)
① 全国統一の筆記試験(約8000人→約3000人)
筆記試験の内容は、教育5分野の専門書を読んで基本事項のチェックとテーマのあるエッセイを書く。
② 各大学で、コース別(小学校担任或いは、中学以上の教科担任)で筆記試験(約3000人→約1000人)
③ 個人面接とグループディスカッション(約1000人→数百人)
数人の試験官が独自に採点した結果(評価項目:人間性・適性・モチベーション)を元に合格者の決定。
又、学校インターン経験も評価されるので、教育学部を志す学生の中には、高校卒業後に地元の学校で1年間のインターンを行う学生が多くいます。
日本の多くの教育学部では、筆記試験(教養科目)のみで合否を決めていますが、フィンランドの教育学部では、フィンランドの教員養成コースの人選への強いこだわりが見られます。このように、厳しい採用試験を通って教育学部に入るので、教育学部生の殆どは、教員を志ざします。
2. 教員養成課程について
1. 教育実習に関して
▼教育実習の内容と目的
① 1年生の時から毎年、理論と実践を往復する教育実習
目的:教育現場で子どもや教師と関わりながら、教育学を学ぶ。
期間:教育学部生は疑問点を解決するために、何度でも観察実習が可能。
② 3回生ぐらいからは指定の授業実践
目的:大学で学んだ理論を授業実践を通して学ぶ。
方法:授業実践後は、担任からすぐフィードバックを受けられる。更に、校長や大学教員と一緒にラウンドテーブルを持つ。ここでは、実習生が何を目的に授業を行なったのかを引き出していくスタイルで行われる。
期間:教育学部生はスキルアップのために、何度でも教育実習が可能。
③ 5年生(最終学年)の探求型の教育実習
目的:自分の研究テーマに沿って、研究型の実習をする。
期間:1ヶ月が2回。
方法:特別な観察ツールを使いこなしデータ分析をしている。
▼評価項目
・自分のパーソナリティが子どもたちにどの程度受け入れられるか
・他の先生たちはどのように先生間の連携を取っているのか
・大学の授業で学んだ理論をどう応用するのか
・自分の創造した授業はどの程度効果があったのか等
十分な教育実習を行なった学生は、子どもへの対処もかなり経験しています。
「なぜ、一人一人に合わせて十分な教育実習が行えるのか?」
ここまで読んできてわかるように、日本とは異なり、教員養成課程に進学する殆どの学生は教師を志ざしています。日本では、教師を志ざしていない学生も教育実習を行い、無駄なコストが実習に使われています。日本で教育学部に進学して、実際に教師になる割合は半分以下です。つまり、教員を志す人のみに教育実習を課すことで、一人一人の実習にかけられるコストが上がり、教師の質の向上にも繋がると思いました。
2. 取得免許状に必要な単位に関して
フィンランドでは、幼小中高で教員になるためには修士号が必要になります。
クラス担任(全教科担任)教員:5年課程(160単位:1単位40時間計算)
・言語及びコミュニケーション関係科目
・主要教科関連科目
・1~2の他教科関連科目
・教育学関連科目
・義務教育で教える教科に関する指導法等科目
・その他自由選択
<教職課程履修者が留意すべき点とされている事項>
・人間の成長全般に関する理解の増進
・教師と学生との双方向のやり取りに勤めること
・教育に関する科学的理論の修得と実際の教育活動への適用
教科担当教員:5~6年の課程(160単位又は180単位の課程)
・教科担当教員養成のための主な授業科目内容は、主専攻とする教科の教科知識に関するもの。
・主専攻の教科については35単位以上履修すること(後期中等教育担当教員については、主専攻の教科については55単位、副専攻の教科については35単位を履修)
・その他、教職関連科目を35単位以上履修すること。
3. 教員採用に関して
1. 採用に関して
フィンランドでは、日本のように県で一斉に受験する教員採用試験は存在しません。「では、どのようにして採用しているのでしょうか?」
実は、ここでは校長先生の裁量で教員の採用を行なっています。又、採用には2段階あります。
● 任用期間
地方自治体にもよりますが、最初の1-3年は任用期間になります。任用期間の面接は、校長先生のみの面接で行われます。そして、任用期間が過ぎ、本採用の流れになります。
▼印象深かった面接の内容
「教師として一番大事にしている価値観はどんなことですか?」
・生徒を信頼し、ポジティブな姿勢で自主性を養うこと。
・とにかくポジティブな姿勢で子どもたちと関わります。
・子どもたちが、将来役立つことを身につけさせます。
・児童対教師ではなく、一人の人間としての関係を作ります。
● 本採用期間
本採用では、校長に加えて教育委員会の方も交えて採用を行います。一人の先生の採用に教育委員会の先生も立ち会います。
2. 研修に関して
教員として就職後は、教員は年間最低3日間は学校外にて研修を受ける義務がある。
・研修受講費用は無料。
・研修費用は主に地方教育委員会が負担。
・研修内容及び実施方法は、雇用者たる地方教育委員会が定める。
日本と異なる点は、勤務時間内に研修が行われるという点です。もちろん、必須の研修もありますが、先生自身が選択して、研修を行うこともできます。その際、先生は学校を休んで研修を受けることができます。先生自身が、研修を選択できることで、意欲的に研修に臨む雰囲気もありました。
ここまで、フィンランドで先生になるまでの課程についてまとめてみました。フィンランドの先生の質が高い理由は大きく3つあります。
① 教師を志す高いモチベーション
② 一人一人に合わせた十分な教員養成課程(教育実習)
③ 教師になっても学び続けるマインド
ここまで読んで頂き、有難うございました。
参考文献はこちら