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フィンランドが2日間で遠隔授業に踏み切れた理由【前編】

「なぜ、フィンランドは休校決定から2日間で遠隔授業に柔軟に動けたのか?」

本日のブログでは、コロナの状況の中で、フィンランドがなぜ2日間で遠隔授業(オンライン学習)に切りかえることができたのかについて前編と後編に分けて、まとめていきたいと思います。

▼以下の動画では、フィンランド人の教育専門家をお招きして、「フィンランドが2日間で遠隔授業に移行できた背景」について話してくれております!


【フィンランドの教育専門家の話】フィンランドが2日間で遠隔授業できた背景

 【動画目次】
フィンランドの学校が2日間で遠隔授業ができた理由
-  ICT環境の整備
-  先生/子どものICT活用力/情報モラル
-  学校現場・教員一人一人の裁量権
-  先生のトライアンドエラー
② 休校宣言から2ヶ月間のフィンランドの学校現場の動き
-  国からの休校宣言から2日間で学校現場が準備したこと
-  実際の遠隔授業の具体的な例
-  なぜフィンランドでは、このタイミングで学校を再開したのか?

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1. 休校から2ヶ月間の動き

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フィンランドでも、休校が始まり約2ヶ月が経過しようとしています。日本も同じように長いところでは、2ヶ月近くの休校が続いていますが、日本とフィンランドの休校中の2ヶ月間を比較すると大きな違いが出ています。
例えば、フィンランドでは、休校後2日間で遠隔授業(オンラインでの学び)に舵を取ることができました。その一方で日本の学校現場はどうでしょうか。オンライン学習が良い悪いではなく、全国の学校の僅か5パーセントがオンライン学習に切り替えることができて、多くの学校では、全ての子どもに等しく教育を提供するために従来のペーパーでの復習問題を課題に出している学校が多い現状があります。もちろん、ペーパーでの課題を出すことが悪いのではなく、今回のブログでは、ICT環境の世界との格差について検討するきっかけになればと思い、フィンランドの20年間の教育改革の成果と絡めながらまとめていきたいと思います。

(1)休校から2ヶ月間の動き

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3月初旬から休校が始まったフィンランドですが、僅か2日間でオンラインでの学習に切り替わりました。私は、今沖永良部島教育委員会配属で小学校現場でも勤めています。その中で、実際に日本で、オンライン学習が進まない理由を現場に出て感じたことをまとめてみます。

1.  家庭環境によって端末/ネット回線の有無しで格差が生まれるから
2. 「オンライン学習=オンライン授業」の認識があり、先生がオンラインの学びへのハードルを感じている
3. 普段の授業でICT機器を活用していないので、先生/生徒共にICT活用能力に不安がある
4. LINEでコミュニティーを作るときは、子どもの情報モラルを心配している等

5. 子どもの自信がオンラインで自学することに慣れていない
ティーチングの学習に慣れており、自学に慣れていない)

6. 親が仕事に出ている家庭の子がオンライン学習を受けられない等

(家庭環境格差における学習機会の格差が心配)

理由を挙げると多くの不安要素が生まれてきます。では、フィンランドでは、日本がオンライン学習に移行するにあたって同じような不安は生まれないでしょうか?
また、一番日本でネックになっている、オンライン学習の環境はどのように整えていったのかについてまとめてみます。

1. 各家庭の端末でオンライン学習で用いる端末を確保

2. 各家庭に端末がない場合は、各学校現場が学校の端末を貸し出す

3. 学校現場に端末が不足している場合は、企業が有志で資金を集めて端末を配布

もちろん、日本とフィンランドでは家庭での端末の所持率もフィンランドの方が高いです。そして、学校現場にも十分な端末が20年前から少しずつ導入されており、現場の端末を貸し出すこともスムーズにできました。それでも無い場合の対応がフィンランドの社会を象徴していました。私が、フィンランドで働いていた地域では、企業が寄付で地域の子どもたち(幼稚園〜高等学校)まで、一人一台の端末を配布していました。今回のコロナの状況でも、全ての子どもに等しく教育を受けられる機会を提供するために、国や学校だけでなく、地域の中の企業も協同で動くところが社会全体で地域の子どもの教育の機会のことを考えていて素敵だと感じました。

(2)実際のフィンランドの学校の遠隔授業の在り方

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ここからは、多くの日本全国の先生方や保護者の方も気になっている、休校中の家庭での学び方、遠隔授業の具体的な事例について紹介していきたいと思います。

▼主に使用しているアプリについて

【共通】保護者との情報共有アプリ( Wilma )

【共通】生徒に課題を与え、提出管理を行うアプリ
( Whats app*日本でいうLINE )

【共通】学校で使用している教科書/ワークブック/オンライン学習アプリ

【小中】生徒に課題を与え、提出管理を行うアプリ( Microsoft teams )
【小高〜中】課題を提出するアプリ( Google drive/Google classroom )
【小低/高校生】オンラインで対面授業を行うアプリ( Teams/zoom )

 

もちろん、学校や先生によって使用しているアプリも異なりますが、フィンランドの多くの学校では、上記のアプリも活用しながら、先生は、オンラインでの学習環境を紙の教科書と併用しながらサポートしていました。では、具体的に小学校からどのように遠隔での授業を行なっていたのかについて、具体的に紹介していきたいと思います。

・プレスクール(日本でいう幼稚園)

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▼ 遠隔授業の在り方

週に2回オンラインで先生と生徒が一緒に繋がる時間があります。
基本的には、Wilmaを使って保護者にその日の課題が送られて、Whatsupを使って、各家庭で課題に取り組み子どもの作品を送りあって、先生は作品にフィードバックを行っていました。

▼ 課題の例

こちらの写真は、図工と理科と体育を掛け合わせた授業になります。フィンランドのプレスクールでは、1日の多くの時間を森で過ごしています。幼少期を森の中で過ごす時間を大切にしているフィンランドでは、コロナの状況でも双眼鏡を家にある材料を用いて作成し、その後手作りの双眼鏡を持って、森に親子で出かけてバードウォッチングをしたり、散歩をする時間を課題に設定していました。

プレスクールの先生が話していた、遠隔授業をプレスクール(幼稚園)で行う上でのポイントは、保護者の方と一緒に、家にある環境を活用して普段学校ではできないような、子どもが好きなものを作る時間のデザインを大切にしていました。

・小学校(低学年)

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▼ 遠隔授業の在り方

低学年における遠隔授業の在り方は各学校現場によって様々な形態があります。

① 学校で直接授業を行う場合

フィンランドの学校現場では、基本的には1年生〜3年生までは、学校で時間を分けて授業を行っている学校もあります。

② オンラインで遠隔授業を行う場合

オンラインでの授業を取り入れている学校では、高学年のようにWhatsup(日本でいうLINE)に課題を投げるだけでは、課題に取り組めない生徒も多くいるので、授業の最初はオンラインでのインストラクションを行う等、発達段階に合わせてオンラインでの学習を行っています。
また、プレスクールとの違いとしては、小学生になると子どもが一人一台の端末(携帯)を持っているので、クラスの子ども全員と担任の先生のグループチャットを作り、その中で担任の先生は、課題を動画で撮って送信して、生徒は課題を各自自宅で行い、チャット上に提出を行い、やり取りを行っている点です。また、同時にWilmaというアプリでも、保護者とのやり取りも行っており、子どもが自律的に学習できる環境づくりを行っていました。

▼ 課題の例

こちらの写真は、理科とアートの時間を掛け合わせた学習になります。四季のあるフィンランドは、長い冬が開けると、渡り鳥がやってきます。子どもたちは、季節の変化を感じながら、親子で外に出て、バードウォッチングをして、観察したものをこれまでにアートの時間で習ってきた様々な手法を用いて、表現していました。立体的に表現する子、絵に描いて表現する子等、生徒によって表現する方法が様々なのが面白いところです。

小学校低学年の先生が話をしていたのは、学校での指導と比較すると、家庭に子どもの教育を半分以上任せる形態を取っているので、家庭における教育環境の差をどうサポートしていくのかがポイントだと話していました。また、低学年になると、ビデオだけで課題を理解することが難しいので、実際にビデオ通話を通じて全員が理解できるように工夫して学習環境をデザインしているみたいでした。

・小学校(中学年以上)〜中学校

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▼ 遠隔授業の在り方

中学年以上になると、子どもたちは自立的な学習を学校で行っていたので、家庭での遠隔授業もスムーズに行えていると話をしていました。具体的に、小学校高学年になると、学校でも課題の提出をGoogle drive上で行っているので、遠隔授業になっても先生は課題をWhatsup等に出して、生徒は課題に取り組み、ドライブ上に提出を行い、先生はフィードバックを一人一人に送っていました。また基本的に、小学校の学習は教科書とオンライン教材と家庭にあるマテリアルを掛け合わせて行っていました。

 

▼ 課題の例

こちらの写真は、アートの授業を家庭にある道具を使って、生徒は各自で取り組み、写真を取って、提出を行っていました。フィンランドでは、全教科を遠隔授業で行うことが国の方針で定められているので、通常授業通り、教師は生徒に全教科の課題を与えて、遠隔での授業を家庭と共同で行っています。その他の教科では...

【国語】エッセーはドライブに提出

【算数】教科書とワークブックを使って学習し、写メで提出

【英語】Whatsupで課題を出し、生徒は音声を録画して提出

【理科】実際に外に出て、観察したものをアートと掛け合わせて表現等

【技能教科】家庭環境でできることを課題に出し、実施

高学年になると、自立的に学習ができる生徒が増えてきています。例えば、学校現場でも、算数の授業は全体での講義の時間は10分程で、残りの時間は各自演習を行ったり、友達同士で教えあったり、早く終わった子はオンラインの教材で学習を行う等、学校の中で遠隔授業を行っていたので、オンライン授業に変わってもスムーズに移行ができていました。

・高等学校

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▼ 遠隔授業の在り方

高等学校になると、日本の大学のように普段の授業から選択学習と必須科目があり、生徒は自分で時間割を組み立てて学習しているので、遠隔授業における大きな変化は、難しい内容の授業を先生に直接聞く機会が少なくなってしまう点です。学習内容が難しく、対話をベースにした授業を行っているフィンランドでは、オンラインでは学習活動が少し制限されるので、オンライン学習を楽しむ工夫を高校は考えて実施していました。高等学校では、学校現場にもよりますが、Teamsやwhat's up, zoomを活用してオンラインでの授業を行っていました。高等学校になると、難易度の高い沢山の課題を自分の力でこなす必要があるので、オンラインに切り替わり、課題の多さにストレスを感じている生徒が多くいる現状があるみたいです。

▼ 遠隔授業を楽しむ工夫

そこで、遠隔授業を楽しむ工夫して高校の先生もオンラインで行える面白い取り組みを行っていました。

① 先生方による演奏会

② 先生と生徒が一緒に行う仮装大会

③ zoomで日本と繋ぐ交流会

④ 生徒のペットもzoomに参加する会

このように、幼稚園から高等学校までが、各学校現場毎に創意工夫を行い、遠隔での授業を行っていました。ここまでで感じたと思うのですが、フィンランドの遠隔授業の形は次のようなイメージです。

① 遠隔授業=オンライン授業ではなく、

遠隔授業=家庭での学習環境を整えてオンラインと従来の授業のハイブリッド型

② 遠隔授業=1つのモデルではなく、

遠隔授業=各地域、家庭によってモデルがある

と言えると思います。日本でも、少しずつ、学校や家庭の実情に合わせて、オンライン授業ではなく、遠隔での学びが充実するような環境づくりが広がっていくといいなと思いました。

(3)特別な支援が必要な子の対応

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最後に、多くの方が気になっている休校下における家庭教育環境によって生まれる格差や、障がいや特別の支援が必要な子どもの支援はどのように行っているのかについてまとめたいと思います。

フィンランドでは、様々な方法で多様化するニーズに答えていました。

特別支援学級の生徒

当別支援の教員が、1:1で電話でのサポートを行っている。或いは、自治体によっては全学校ではなく、支援が必要な子どもをある学校に集めて学習の機会を保証。

② 移民の生徒(フィンランド語が分からない生徒)

支援が必要な子どもをある学校に集めて学習の機会を保証。

③ 家庭環境に支援が必要な生徒(家庭教育支援)

学校によっては、気軽に家庭での遠隔授業の悩みを相談を聞けるように学校にソーシャルディスタンスを保ちながら相談できる体制を作っている。

④ 低学年で支援が必要な生徒

低学年は支援が必要であれば、学校での授業を許可している自治体もある。

このように、フィンランドでは、休校から2ヶ月間かけて、各学校現場毎によりよい遠隔授業の在り方について模索を続けてきました。

今回のブログを通して、フィンランドがなぜ2日間で遠隔授業に移行ができたのかが伝わったのではないでしょうか?フィンランドでは、約20年前から教育現場のICT化を推し進めてきました。

次回のブログでは、柔軟な遠隔授業への移行を実現させた5つの鍵についてまとめていきたいと思います。

 

ここまで、読んで頂き有難うございました。

 

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