フィンランドの学校に行こう!

フィンランドの教育を通して日本の教育を見つめ直す。

探究実践レポート①子ども市議会議員プロジェクト

今、私は「探究を探究する」ために国際バカロレア認定校で働いています。

まずは、国際バカロレアについて簡単に説明を行います。

国際バカロレアの学校は、「国際的な視野から平和を担う人間を育むこと」を目指している学校になります。具体的には「国際バカロレア(IB)の使命」には次のことが書かれています。

国際バカロレア(IB)は、多様な文化の理解と尊重の精神を通じて、より良い、より平和な世界を築くことに貢献する、探究心、知識、思いやりに富んだ若者の育成を目的としています。

この目的のため、IBは、学校や政府、国際機関と協力しながら、チャレンジに満ちた国際教育プログラムと厳格な評価の仕組みの開発に取り組んでいます。

IBのプログラムは、世界各地で学ぶ児童生徒に、人がもつ違いを違いとして理解し、自分と異なる考えの人々にもそれぞれの正しさがあり得ると認めることのできる人として、積極的に、そして共感する心をもって生涯にわたって学び続けるよう働きかけています。

詳細は文部科学省がまとめているこちらのリンクをご覧ください。

私が、なぜ国際バカロレアのPYP(初等教育)のカリキュラムの作り方に興味を持ったのかというと、教科の枠を超えたテーマという考え方にとても共感したからです。

▼PYPの基本的な考え方(参考リンク:PYPのつくりかた)

PYPは「本物」の学習こそが最も効果的であると確信しています。すなわち、学習が「児童にとって本当の」世界に即したものであるとき、そして教科の枠をこえた学習であるときに、最も効果的な学びが行われるということです。

そこでは、学びは従来の教科学習の範囲に限られることなく、それぞれの教科がお互いを支援、強化していきます。それは、一人ひとりの児童が個々の発達に合った方法で意欲的に参加するプログラムであり、学校がこれを、誰にでも開かれた、インクルーシブな方法で実施することを意図しています。

私は、教科横断型のカリキュラムと出会ったのは2019年のフィンランドでのインターンがきっかけでした。日本で教科カリキュラムで学んできた私にとって、あるテーマについて教科の枠を超えて学ぶ探究的な授業は新鮮だったのを覚えています。

フィンランド教育では「現象ベースの学び(phenomenon-based learning)」という手法が取り入れられています。フィンランドで「現象ベースの学び」が取り入れられたのは、2016年に教育カリキュラムが改定されてからです。改定後は、義務教育の期間に、年に1回以上の教科横断型の授業をすることが義務化されました。(実践参考リンク

私が実際に見学したフィンランドの小学校で行われていた"現象ベースの学び"は、フィンランドの良いプロダクトを世界に発信するプロジェクトでした。

実際の生徒のアウトプットの作品

このプロジェクトの背景として、子どもたちに共有されていたのは、フィンランドでは高いクオリティのプロダクトが作られているのにも関わらず、国際的なマーケティングの弱さを課題に感じており、小学生にどのようにすればフィンランドで作られたプロダクトを世界にPRできるのかを問うものでした。

この問題は、今のフィンランドの実際の状況を子どもたちと共有することで、子どもたちに実社会での現象を学んでいることを共有していました。

私自身、この現象ベースの学びを子どもたちが1週間かけて探究する姿を見て、学習が「児童にとって本当の」世界に即したものであるとき、最も効果的な学びが行われるということを感じていたのを思い出しました。

今、私は国際バカロレア認定校で小学4年生の担任をしています。本ブログでは、自分自身の授業のリフレクション(振り返り)としてまとめていきます。

国際バカロレアのPYPのカリキュラムでは、概念を使った探究のデザインを取り入れています。私自身、概念型のカリキュラムを学習中なので、今の段階での私なりの理解でまとめていきます。
*概念型のカリキュラムでおすすめの著書(こちら

今4年生のユニットの概要

▼ 教科の枠を超えたテーマ
How we organise ourselves
私たちは自分たちをどう組織しているのか
▼ セントラルアイデア

Structure of goverment impacts the way we live.
政治は市民生活に影響する
▼ 探究の流れ
- Responsibilities which government has
政府が持つ責任
- Different govenment systems
異なった政府の形態
- The rights and responsibilities of citizens
市民の責任と役割

知識の構造

ここで書いてあるセントラルアイデアというのは、この単元を通して子どもたちに一番伝えたいメッセージのようなもの(中心的な概念)だと考えています。
一般的に公立の小学校では、政治については小学校6年生で扱う単元になります。私自身もこのユニットに入る前は、小学校4年生で政治について学ぶことは身近に感じないのでないのかなという不安もありました。

そこで、今回のユニットでは敢えて子どもたちにセントラルアイデアを示さずに探究をスタートすることにしました。

まずは、探究が始まる前に、ブルームが教育活動における評価として示している「診断的評価」「形成的評価」「総括的評価」の「診断的評価」について考えました。

セントラルアイデアである「政治は市民生活に影響する」の中で、子どもたちにとって「市民生活」に「影響」を与えている「何か」について、何を知っているのかを知れるような導入を何にするのかを考えていました。

診断的評価

Feel度walk

悩んでいるときに出会ったのが、一般社団法人みつかる+わかる代表理事の、東京コミュニティスクール元校長の市川力さんが提唱している「ジェネレーター」という考え方です。市川さんは、大人が「見えないなりゆき」を目指して進むプロジェクトに馴れるために、「Feel度walk」という活動を日本全国で広げています。
*おすすめの本のリンク(ジェネレーター)

「Feel度walk」をするときの大人のあり方としてGraspを示しています。

G=Guide(「ガイド」すること)
R=Release(解き放ち、待つ)
A=Accept(思いつき・発見を認めるすることで生まれる信頼感)
S=Show(失敗も無様な部分も「さらけ出す」)
P=Participate(「一蓮托生」の場に「参加」する)

「Feel度walkとは?」

Feel度Walk(フィールドウォーク)とは、「なんとなく気になるモノやコトを追い求め、あてもなく学校の中や外、街など(場所は問いません)を歩いてみる」というもの。参加者がそれぞれ歩きまわり、気になったものを寄せ集め、気になったモノを絵や言葉で1枚の紙にまとめた「知図」を作っていきます。気になったモノの背景に、一人ひとりの「概念」(ものの見方や考え方)が透けて見えてくるのが、Feel度Walkの醍醐味です。

そして、実際に学校の周りを子どもたちと一緒にFeel度walkをするところから探究をスタートが始まりました。

Feel度walkのアウトプット

子どもたちと一緒に学校の周りを歩きながら「なんとなく気になるモノやコトを追い求め、あてもなく学校の外を歩いてみる」そして、学校に戻ってきて、気になったモノを絵や言葉で1枚の紙にまとめた「知図」を作りました。

▼子どもたちが気になったもの

・なんでナンバープレートがあるの?
・なんでお金はあるのか?お金は誰が作っているの?
・電柱に書かれている番号は何を意味しているの?
・電柱に付けられている看板のようなものは誰が何のために作ったの?
・何が原因で道路にヒビが入るの?
・ヒビがどのくらい大きくなると修理するの?
・道路は誰が修理するの?
・電気はどうやって繋がっているの?
・誰が交通ルールを作ったの?etc...

Feel度walkをする前は、セントラルアイデアである「政治は市民生活に影響する」とは関係ないことが多く出てくるのかなと思ったのですが、セントラルアイデアにつながりそうな種を自分たちで見つけてきたことに驚きました。

そして「診断的評価」として、誰が何のために、いつ社会の中に決まりのようなものを作ったのかを尋ねてみました。

診断的評価「世の中にある決まりのようなものについて」

子どもたちは、世の中にある決まりのようなものについて何となく掴んでおり、決まりのようなものを作った人は誰かという問いには、警察官、神様、大統領というような言葉が出てきました。そして作られたのいつなのかという問いには、大昔、誰かが事故を起こしたとき、誰かが苦しんだときに誰かが提案したとき等という言葉が出てきました。

ここから子どもたちの探究がスタートしていきました。

12人の子どもたち一人一人がFeel度walkで見つけた「なんとなく気になるモノやコト」を書いてみて、それぞれ予想を立ててリサーチが始まりました。

12人一人一人が自分が興味があることをリサーチする中で、クラスの中で色々な情報が集まり始めました。

その中でも印象的だったとある子どものリサーチを紹介します。

▼ リサーチテーマ

「道路はどれくらいヒビが入ると、誰が修理をするのだろう?」

▼ リサーチ方法
① 予想を立てる

② 実際に市役所に行って市役所の職員にインタビュー
③ インタビューして更に疑問に思ったことを本で調べる
④ 探究したことをまとめる

▼ リサーチ結果
・道路には公道(国道、県道等)と私道があること
・道路の修理の予算は国道は国の予算が伝われていること
・お金は国民の税金で集められていること

その他にも、
・身の回りにある法律が国会によって作られていることを知った子
・身の回りのお金が印刷局によって作られ、それが日本銀行を通じて地方の銀行に繋がっていることを知った子
・田舎と都会にある格差と地方交付税の仕組みを知った子等
それぞれが身の回りのあるもので気になったものをシェアしながら事実となる情報をリサーチしていきました。リサーチを通じて、身の回りにある身近なものが何か大きなものと繋がっていることを感じたのではないでしょうか?

ここで、身の回りのある「なんとなく気になるモノやコト」のリサーチは一旦休止して、市民生活と政治を繋げる役割がある「市議会議員選挙」のアクティビティを取り入れました。

選挙の役割

実際に市議会議員の立候補者がまとめられた新聞を読んで、自分が投票した人を選んで投票をしてもらいました。同時に市議会議員選挙の立候補者が載っている新聞を見て「See(事実)-Think(考えたこと)-Wonder(疑問)」のワークを行いました。

市議会議員選挙を見てのwonder(疑問)

実際に投票したのは12名中8名(66%)という結果になりました。そして、投票しなかった理由について尋ねると「なんとなく。」という声がありました。まだ、子どもたちにとって、何のために選挙をする必要があるのか分からない様子でした。

そして、ここからは、子どもたちが疑問に思った市議会や選挙の疑問についてのリサーチが始まりました。
・そもそも選挙とは何か?選挙は何のためにするのか?
・議会は何をするのだろう?この人たち(市議会議員)はどんな仕事をしているのか?
・なぜ、選挙は大人しかできないのか?
・なぜ、立候補者は選挙運動をしているのか?
・なぜ、選挙は投票で決めるのだろう?等...

子どもたちのリサーチが進んできたところで「本物と出会う」ためにフィールドトリップで市役所と市議会を見にいきました。

市役所と市議会の役割

市役所に着くと、市議会が市役所の中にあることに気づき、市役所と市議会が繋がっていることを体感する子どもたち。

市役所と市議会の繋がり(筆者撮影)

そして、実際に市議会が行われる議会室に入ると、この場で市役所の職員と市議会の人と市長が税金の使い道について議論すること等について市役所の方から学びました。

「本物と出会う」フィールドトリップを通じて選挙と市議会と市役所が繋がっていることに気づき始める子どもたち。

形成的評価

ここで、ユニットの前半を終えて「形成的評価」に入ります。テーマは、市民と市議会と市役所のそれぞれの役割と繋がりについて説明をすることです。

子どもたちはチームに分かれて、それぞれの表現方法で学んだことをまとめていきます。「ポスター」「canva」「google slide」等自分で表現方法を選択して学んだことをまとめていきました。

その中でも、私自信が表現方法として迷ったのはマインクラフトでのアウトプットでした。「マインクラフト=遊び」という印象が一瞬私の頭をよぎりましたが「マイクラを使って学んだことをどのように表現するのか?」を尋ねると「市役所の中に市議会があったから、マイクラで再現することで、市議会を知らない人にも伝わると思う。」

私の中で一瞬の葛藤がありましたが、子どもがマイクラを効果的な学びの手段として選択していることを尊重して「やってみよう!」と声をかけて、その子はマイクラで作り始めました。実際に作り始めると、時間がかかり学校の授業だけで完成させることは難しいと感じ、土日を活用して市役所でのフィールドワークを振り返りながら中間プレゼンテーションまでに完成して発表をすることができました。

イクラで市議会を再現

実際のプレゼンテーションでは、見ている子どもたちも驚いた表情でした。子どもたちは公平な目を持っているので、作品をみた時に、マイクラを学びとして活用しているのを感じ、マイクラで表現したアクションに良いフィードバックが場に生まれていました。

中間プレゼンテーションの中で、身の回りの道路の予算が国会とよばれる場所から予算が来ていることが取り上げられていました。自分たちの身の回りのものが、市議会や市役所の方が関わっていることを学び、さらに国という大きなものとつながっているかもしれないという疑問が子どもたちの間に広がり始めているのを感じました。

国会の役割

国会についてリサーチを始める前の子どもたちとの対話の時間の中で「市議会と同じように国でも会議が行われていそう。」「国議会っていうのかな?」「市議会議員と同じように国議会議員というのがありそう。」というように、市議会の考え方を応用して考えている子どもたちの姿も見られました。

そして、国会について役割についてリサーチを進める子どもたち。そして国会の収入に多くの消費税が財源になっている金額を見て驚く子どもたち。その一方で、金額を見てもピンとこない様子の子どもたち。

ここで、小学4年生の算数の学習指導要領の範囲である大きな数(億や兆)について学ぶ必要性が出てきました。

算数の学習①「身の回りのある大きな数」

算数②「身の回りのある大きな数」

国際バカロレアのPYPのカリキュラムでは、数学を探究しているユニット(実社会に起きていること)と重ねながら学ぶことを大切にしており、数字があることでぼんやりとしていたものがクリアになる良さや、世の中を数学的な見方を働かせて見ることができる子どもを育てることを大切にしています。

億や兆について学習した後に国の予算を見ると、国で働く人がとても大きな金額をみんなのために使う計画を立てて、実行しているのかを知り「国で働くには、数学がめっちゃ必要じゃん。」と言って、国で働くことの大変さや難しさを感じている子どももいました。

その後、国会が予算を立てることを学び、実際に立てた予算に基づいて誰が実行しているのかを疑問にもつ子どもも出てきました。それが「内閣」の学習に自然につながっていきました。

内閣の役割

「内閣」についての学習では、12名の子どもたちそれぞれに、異なる大臣(外務大臣文部科学大臣厚生労働大臣etc...)を選んでもらい、それぞれの大臣(省庁)が行っている仕事についてまとめ、来年度の計画と予算について考えてもらい、模擬閣議を行いました。実際の会議では、大きく昨年度の予算を上回り「もし予算を超えてしまった場合にどのようにして話し合いで決めるのか?」そんな疑問も生まれていました。

模擬閣議の準備資料
裁判所の役割

国会と内閣について学習していると子どもたちは「裁判所」という言葉も一緒に見かけるようになります。裁判所については、刑事ドラマで見たり、実際に交通ルールを破ると罰金等の仕組みがあることを何となく知っている子どもたちもいました。

そして裁判所に行く前に、裁判所の法定にも置かれている「六法」について知るために「子ども六法すごろく」を事前に行い、法律について学んで実際の裁判所の法廷の見学を行いました。

実際の裁判では「無免許で飲酒運転を行なった被告人の刑事裁判」の法廷見学を行いました。小学4年生にとって、実際に社会の中で法律を破った時に、裁判で裁かれる様子を見て色々なことを感じ取ったのではないかなと思います。

▼ 裁判の傍聴見学後に子どもたちが感じていたこと

"分からない言葉がたくさんあった!"
"なんか、ちょっと緊張した"
"18歳で裁判員に選ばれたらちょっと怖いなぁ"
"質問されてちゃんと答えられてすごいと思った。自分だったら何も答えられないかもしれない"
"ちゃんと反省してるように見えた"
"裁判が2回目ということはちゃんと反省しているのかな?"
"将来運転するのが怖くなった"
"お酒も怖いなぁ"
"悪いと分かっていても間違ってしてしまうことって自分もあるなぁ。だから、親は自分たちを怒るのかもしれない"
"検察官の人がちょっと言い方が強かった"
"裁判を最後まで見たかった"
"次は2つの立場で争っている裁判を見てみたい"

そして、裁判所の役割について振り返りを行なった後に、子どもたちから実際に模擬裁判をやってみたいという提案がありました。

模擬裁判(原稿リンク)では、12人それぞれに役割が与えられ、2日間に渡り裁判が行われました。検察官と弁護人は実際に裁判に必要となる証拠となるものを準備し、法廷が開かれました。

▼模擬裁判後に子どもたちが感じていたこと

・裁判官
▷どちらにも証拠があり判決を下すのが難しかった
*有罪判決を下した後に2日間落ち込んでいた後日談もありました。
・弁護士
▷弁護士の役割は、被告人(無罪かもしれない)を守ることであり、証拠を集めることはとても難しいことを知った
・証人
▷今回は自分たちだけで裁判に戦ったけど、次は弁護士の力を借りようと思う。
・被告人
▷裁判に負けて悔しかったけど、次は高等裁判所で裁判では勝ちたい。

模擬裁判を通して、

・模擬裁判をきっかけに本当の争いが生まれ、自分たちでは解決できない争いごとがあることを知り、だからこそ裁判所があること。
・検察官と弁護士の動き(証拠)次第で裁判の結果に影響を与えること。
・裁判所の判決が人の人生に与えることへの責任の重さ。

裁判の仕組みや役割、影響についてリアルに体感した模擬裁判になったのではないかなと思います。

税金の役割

最後のフィールドワークで訪れたのは「税務署」になります。

「正直、みなさんは税金を払いたいですか?」という税務署の職員の問いかけに、大人も子どもも「正直払いたくないな〜」という素直な気持ちから学習が始まりました。

しかし、税務署で税の役割を学ぶことで徐々に考え方が変わっていく子どもたちの姿を感じました。「もしも税金がなかったら…」

実際に税金のない世界を想像することで身の回りにあるみんなのもの(道路、信号機、公園等)や、みんなのためにある仕事(消防、救急、警察等)が税金でまかなわれることを知り始めます。

フィールドワークの最後で改めて税務職員の方から「税金はきちんと払うべきだと思う人?」という問いかけに全員の手が上がりました。実際に税務署のいろいろな部署を周り、働く人の生の声を聞くことで「税金の役割」を体感する1日になったのではないでしょうか?
*子どもたちと一緒に見た税に関する動画(リンク

税務署見学後の気づき

総括的評価

いよいよ、政治のユニットで学習するトピックにつながる事実の学習を終え、いよいよ総括的評価に入っていきます。総括的評価では以下のような課題を設定しました。

総括的評価課題

また、こちらが総括課題のルーブリック評価(パフォーマンス評価)になります。国際バカロレアの学校では、いわゆる教科書の知識をどれだけ正確に覚えているのかを測るためのテストは行わず、このユニットを通じて身につけて欲しい教科の知識や見方・考え方、概念を実際に用いる活動(=今回は子ども市議会議立候補者)をプロジェクトベースで実行し、成し遂げるプロセスを観察して、このユニットで身につけて欲しい知識と概念をどれだけ活用できているのかを観察し、評価を行います。

こちらが、子どもたちに配布したプロジェクトを進めるための資料になります。

リサーチ計画

まずは、チームメンバー編成からこのプロジェクトはスタートしました。チームメンバーの決定方法も子どもたちに委ねました。

▼大きく2つの意見が出てきました。
「プロジェクトまで2週間で時間も限られているのでコミュニケーションが取れるように仲のいいメンバーで構成したい。」
「いつも同じメンバーでプロジェクトを行なっているので、いつもとは違うメンバーでチーム編成をしたい。」

そして、折衷案として、仲のいいメンバーでプロジェクトをしたい3人は同じチームになり、それ以外のメンバーはくじでランダムに決まりました。何かものごとを決定するときに、民主主義の原則である多数決で決めるのではなく、全員が納得がいくような話し合いができていました。
チームが決定し、選挙までの2週間を、どのような計画で行っていくのかをチームで計画を立てました。ここもチームによって進め方が異なりました。計画を立てて計画通りに進めていこうとするチーム。計画を立てずにプロジェクトに向けていち早く動き始めるチーム。私自身計画を立てて実行する管理スキルを身につけることを意図したのですが、世の中には計画を立てて遂行していくことがあっている人や、計画を立てずに目的に向かって柔軟に対応しながら進めていく人もいるので、プロジェクトの進め方も子どもたちに委ねることにしました。

次に、子ども市議会議員になるに向けて、公約を考える必要が出てきます。子どもたちは、市議会議員が市民の生活をより良くするための仕事をしていることを学んだので、岐阜市で生活していて、困っていることや、岐阜市がこうなったらいいなということを考えてもらいました。

しかし、なかなか考えが思い浮かばない子どもたち...。そして、自然な流れで、実際に岐阜市に住んでいる大人に聞いてみようということで、インタビューがスタートしました。

インタビューシート

最初は、岐阜市に住んでいる人ということで、学校の先生たちにインタビューを始める子どもたち。そして、子ども市議会議員ということで、違う学年の友達にインタビューする子どもも出てきました。インタビューを通して自分では気づかなかった岐阜市での困りごとを知ったのではないでしょうか。

また、学校でのインタビューだけではなく、学校の周りに住んでいる地域の方へのインタビューも行いました。

▼ 子どもたちがインタビューの中で見えてきた岐阜市の困りごと

・車がない高齢者は、バスの本数が少ないので不便。
・ポイ捨てが多い。
・歩道の幅が狭い
・自転車の走る道路がない。
・公園が少ない。
・公園はあるけど、あまり整備されていないので、人が少ない
・街路樹が少ない。
・電灯が少ない。
・若い人とお年寄りが交流する機会が少ない等

インタビューの集計と整理

子どもたちはチームごとにアンケートの集計と分析を行い、その中で、自分たちが解決したい、解決すべき岐阜市の課題を選びました。アンケートの集計をする中で、チームの中で同じ人にインタビューをしていたことに気づく子どもたち。「ちゃんとコミュニケーションを取ればよかった...。」でも、ここも失敗から学べるデザインを大切にしました。最初から全部丁寧に教えてプロジェクトを進めるのではなく、自分たちでやってみて「あっ!」と気づく瞬間をデザインすることも大切にしています。

また、インタビュー結果を集計することは算数科「データの活用」の学習にも繋がっていきます。 

(1)データの収集とその分析に関わる数学的活動を通して,次の事項を身に付けることができるよう指導する。次のような思考力,判断力,表現力等を身に付けること。
イ  目的に応じてデータを集めて分類整理し、データの特徴や傾向に着目し、問題を解決するために適切なグラフを選択して判断し、その結論について多面的に捉え考察すること。

子どもたちは、市民の困りごとを解決することを目的とし、実際にインタビュー調査を行い、分類整理を行いました。そして、データの特徴や傾向に着目するために、何人の人が同じ困りごとを感じているのかを数値化することで傾向分析を行いました。

リサーチ課題

また、チームでのプロジェクトですが、今回のユニットを通して育みたいATL(Approach to learning)は、リサーチスキルに焦点化しているので、一人一人がリサーチスキルを高められるように、一人一つ課題を決めて、3人グループで3つの公約で選挙活動ができるように設定しました。また、国際バカロレアのPYPの探究活動において探究を深める鍵になるのがキーコンセプト(重要概念)です。キーコンセプトについては、また次のブログで補足したいと思います。
▼ 今回のユニットのキーコンセプトは以下の3つです。

① 特徴(それはどのようなものか?)
岐阜市の課題とはどのようなものか?
② 関連(それは他のものとどのようにつながっているのか?)
岐阜市の課題はなぜ、起きているのか?
>この課題が続くと岐阜市の未来にどのように影響していくのか?
③ 責任(私たちにはどのような責任があるのか?)
>私たち岐阜市民の役割(責任)とは何か?

子どもたちの中には、実際に岐阜市のバス会社で勤めていた人にリサーチしている人もいました。「岐阜市のバスが減っているから増やせばいい!」と結論づけるのではなく、そもそもバスがなぜ減ってしまったのかをシステム思考のような感じでリサーチをしていました。

▼バスの本数が減った背景

岐阜市でバスを利用する人が減ってきている。
② つまり、バスを増やしても儲からないのでバスの本数を減らす。
③ ますます、人がバスに乗らなくなり、車社会になり、車に乗れない高齢者は困る。

リサーチ課題2

リサーチ課題2では、岐阜市が今起きている課題とどのように向き合っているのかをリサーチした上で、改めて市議会に提案すること、市民にできることをを考えていきます。

そして、セルフホームワークで岐阜市の公園の現状について探究していた子もいました。「公園が少ない」という声が上がっているのが、本当に数が少ないのかを確かめるために、岐阜市の校区ごとの公園数のリサーチ、次に自分の校区の公園を実際に訪れて、公園の様子(遊具と遊びに来る人の関係性等)を観察、最後に岐阜市の公園をよくするためのアイデアとして、雨でも遊べる屋根付きの公園というアイデアを生み出していました。

セルフホームワークリサーチ(一部抜粋)

選挙運動に向けたアウトプット

リサーチをして、深めた上でいよいよ自分たちの考えた公約を伝えるための準備に入っていきました。自分たちのリサーチした内容と政党名が繋がるような名前をチームで考え、4つの政党が誕生しました。

「おもしろ公園党」「岐阜県ナマズ党」「岐阜市民権利党」「SMD岐阜市議会党」

まずは、選挙をするにあたり、学校の先生、保護者や親戚の方、学校の周りの地域の方に自分たちの活動を知ってもらえるようにポスターの作成を行いました。ポスターの作成方法もチームによって様々で、手書きのポスターを作成するチーム,canvaでデザインするチーム、模型を作成し写真を撮ってcanvaでデザインするチーム等様々でした。

▼選挙ポスター

選挙ポスター(一部紹介)

次に期日前投票に向けて、色々な人にポスターでは伝わらない具体的な公約の内容を知ってもらうために、各政党ごとに1分程度のプロモーション動画の作成を行ってもらいました。チームによっても作成のプロセスは様々でした。

岐阜市で起きている課題をリサーチしプレゼンでまとめたものを動画にする
・公約で書かれていることをマイクラの世界で再現し、そのキャプチャー動画を素材として入れる
・canvaで若い人にも見てもらえるようにInstagramのテイストで動画を作成
・プレゼン資料をそのまま貼り付けるだけでなくcanvaでデザインし直す
岐阜市で実際に起きている課題を写真に撮って動画の素材にする

3人チームで共同で編集しながら動画の作成を行っていました。

▼ 選挙プロモーション動画

「おもしろ公園党」▶︎リンク
岐阜県ナマズ党」▶︎リンク
岐阜市民権利党」▶︎リンク
「SMD岐阜市議会党」▶︎リンク

▼ アートで実現したい公園を表現

理想の公園

「どうやって、自分たちが作ろうとしている公園を分かりやすく伝えるのか。」子どもたちは「クラフトマン」になって、手を動かしながら、理想の公園をつくっていました。

実際の選挙活動でも、公約を聞きにきた人(子連れのお母さん、児童等)に模型を使って説明することで「こんな公園あったらいいな」という声が沢山聞こえてきました。自分たちが考えていることを誰かに伝えるために、イメージできるものを制作して伝える価値を感じたのではないでしょうか。

▼マインクラフトで理想の公園を再現

イクラで理想の公園を再現

さらに、このチームはマインクラフトでも理想の公園を再現していました。模型だからこそ伝わるもの、マイクラだからこそ伝わるもの、プレゼン資料だからこそ伝わるもの、それぞれの良さを活かしながら、選挙に来てくれた人に論理的にも共感的にもアプローチしているのを感じました。

また、選挙をするにあたって議論になったのが「選挙権」についてです。選挙権を何歳以上にするのかをクラス全体で話し合いを行いました。

▼議論の論点

● 選挙権を3年生以上にする

4年生になったら選挙について学ぶので、自分たちの学んだことを伝える機会にしたらいいと思うから。

● 選挙権を5年生以上にする

3年生は選挙について学んでいないので、選挙の目的を分からない状態で選挙をすると選挙をする意味がないと思うから。

最終的には、3年生以上に選挙権を与えることに決まりました。

そして、迎えた選挙当日。

選挙当日

子どもたちは、まず投票率を上げるために、もう一度選挙の案内を学校中で行い、各学年の教室で自分たちの政党の公約の説明を行いました。3年生には、選挙の目的についての説明も行いました。そして、休み時間になると続々と投票をしに小学3年生以上の子どもたちがやってきました。小学3年生から、大人までが選挙にやってくるので、子どもたちは話す相手によって伝え方を変えないといけないことを学んでいました。また、今回の選挙では外国から来た先生にも選挙権が与えられているので、子どもたちは選挙当日に日本語で作成した資料を使って、英語に翻訳して話すチーム、或いは、日本語の資料を英語に翻訳して英語でも伝わるように資料を作り直したチームもありました。英語を話さないといけない状況をデザインすることで、子どもたちにとって「なぜ英語を学ぶのか」を体感した時間になったのではないでしょうか?

当日作成した英語での資料(一部)

子どもたちの選挙運動の成果もあり、全部で129票の票が集まり、選挙率は80%を超えました。選挙後は、今月のLearner Profileでもある、Communicatorを切り口に「選挙の中で活用したコミュニケーションスキル」をテーマにリフレクションを行いました。

▼ 選挙後のリフレクション

・自分の考えた公約を説明するのが難しかった。なぜなら、先生や外国の先生など、人によって説明の方法や内容が変わるのが大変だったから。
・たくさん自分の考えたことを話すことができた。もっとよくするには、もう少しいろいろ考えて、勇気をもってしゃべること。
・今までで一番面白いコミュニケーションが取れた。色々な人にナマズ党の良さを知ってもらうために、いいことをたくさん説明できた。プレゼン資料に書いてあることを読むだけだと相手に伝わらないから、自分の言葉で付け加えて説明できた。
私が考えるコミュニケーションは「色々な人に話せる人」だと思います。いつも話している人には話せるけど、今日みたいなプレゼンや発表は知らない人に話すので、プレゼンするスキルが身につくと思った。
・選挙のコミュニケーションで難しかったことは、ポスターを使って説明をするときに、ポスターに書いてあることをそのまま読まずに、自分の言葉で話すことがちょっと難しかったです。
コミュニケーションができる人は意見を持っている人。特に先生に説明をすることが難しかった。
・コミュニケーションとは、相手が質問して自分が答える。自分が答えて相手が質問して、また自分が答える。その繰り返しだと思った。コミュニケーションは一方的に話すことではなく「かかわり」だと思った。

日常よく使っている「コミュニケーション能力って大事だよね。」でも、具体的にコミュニケーションができる人ってどんな人だろう?今日の選挙運動で様々な年齢、様々な国籍、様々な立場の人一人一人に自分たちの考えた公約について説明する中で子どもたちは色々なことを感じ取っていたのがリフレクションからもわかります。

そして気になる開票日。1位と2位はとても接戦でした。投票する人も、1票に絞ることにかなり悩みながら1票を入れてくれました。選挙に当選したチームは「この公約を岐阜市の市長さんに提案してみたい。」と話をしていました。

投票結果

開票して終わりではなく、次はお互いの選挙活動を教室内でプレゼンテーションを行いました。お互いのプレゼンテーションを聞いて、3つのこと(Kind,Specific,Helpful)を大切にしながら、3つの観点(Keep,Problem,Improve)でフィードバックをお互いに伝え合いました。

ある子どもの変化としては、開票後は「なんで負けたのか分からない。」と話していた子が、相手のプレゼンテーションを見て「そりゃ、私もここに投票する。」と呟いていました。勝ち負けで終わりではなく、社会からリアルなフィードバックを受けて、良かったことや次に活かせそうなことを子ども同士で学び合う。そんな環境がチラッと垣間見える時間になりました。

そして、いよいよユニットの総まとめに入っていきます。子どもたちは提示されたルーブリック評価を見て自己評価とユニットで学んだことを振り返っていきます。

▼ Unit全体を通してのリフレクション

◎ 政治ってなんのためにあるんだろう? 
・政治は予算や法律を決めるために必要。
・国会は法律を変えることができる。
・選挙をなぜするのかというと、みんなが思っていることを実現するためにある。
・政治がなかったら、市民は楽しく暮らせないと思う。なぜなら、自由になって喧嘩が多くなると思う。
・選挙や国会があると平等で楽しく、幸せに暮らせると思う。

◎ 政治は私たちの生活にどのような影響を与えていると思いますか?
・税金の使い道を決めていて、例えば税金が救急車などに使われている。
・税金はみんなのために使われる。
・政治は選挙でリーダーを決めて、
・税金がなくなると、ゴミが増えたり事故が多くなる。

◎ 私たち(市民)の役割(責任)ってなんだろう?

・税金を支払うこと。
・もし、私たちが税金を払わなかったら大変なことになる。
・選挙はリーダーを決めるためにある。
・友達と一緒に公園に行って事故を起こしてしまったらお金を払って責任を取らないといけない。
・選挙は代表を決めて、私たちに指示を出すためにある。
・ポイ捨てをしない責任がある。

◎ このユニットを通して学んだこと、感じたこと
・このユニットの後は市長さんに会って、選挙のことを話したい。
・どうしたらみんなが生活しやすい町になるのかを学んだ。

今回のユニットでは社会的な見方・考え方を育むユニットでした。次のユニットでは科学的な見方・考え方を育んでいくユニットになります。また、レポートを楽しみにしていただけたらと思います。

ここまで読んでいただきありがとうございました。

 

*写真は全て筆者撮影/作成しています。