ユニット2 人々は生きるために自然に適応する
ユニット2で一番子どもたちに伝えたいメッセージは「人は生きるためにどのようにして自然に適応することができるのか?」このメッセージを体感的に理解できる方法を考えたときに出てきたのが「登山」でした。
日本に住んでいる私たちは、常に自然災害(地震、津波、大雨、台風等)のリスクと共に生きることが求められます。しかし、実際の生活は守られた自然環境の中で生活することが多く、自然の存在を体感することなく生活をしているのではないかなと感じています。そのため、生活の中で天気を意識することや、遊びや旅行の中で気象条件を確認して自然アクティビティをしたり、災害に向けた防災対策について意識している人は多くはないと思います。
このユニットが終わったときに、子どもたちが自然や自然災害のリスクにはどのようなものがあり「人々は生きるために自然に適応しなければならない」ことを一人一人が理解していることが1つの目標になります。
この登山のプロジェクトはミニ登山からスタートしました。ミニ登山は、本番と比べると比較的標高が低く、リスクの少ない山を登りました。
ミニ登山の前は、山にはどのようなリスクがあるのかをクラス全体でリサーチを行いました。
大人が安全な環境を全て準備するのではなく、子どもたちと一緒に山でのリスクを考え、一緒に対策をしていくことで、自然現象のリスクと向き合うマインドセットを行いました。
リスクについて考える前の子どもたちは「虫がいるかな?」「楽しそう」というリスクについては知らないことで楽観的な様子でしたが、リスクについて知ることで「なんか怖いな」「めっちゃリスクあるじゃん」という言葉が出てくるようになりました。「知らないことが一番のリスクであること」を感じたのではないでしょうか?
実際に、頂上では大きなムカデが現れました。リスクについて学んでいなければムカデに攻撃をしてふざけたり、慌てて動いてしまい別の事故につながっていたかもしれないですが、事前にリスクについて考えていたことで、ムカデが出た時も、最初は動揺していた様子でしたが、冷静に距離を保って自分自身と周りの安全の確保に向けた行動が行えていました。
山を上り終えて、登山本番に向けた準備が探究の時間とPSPEの時間で始まりました。PSPEでは子どもたちと、登山をする上でどのような体力、筋力、スキルが必要なのかをミニ登山を通して気づいたことをリフレクションで言語化し、PSPEの時間で必要なスキルのトレーニングを行いました。
探究の時間では、身の回りの気象現象のメカニズムについて探究(詳細リンク)し、登山前日には山登りに向けたオリエンテーションを登山家の人から受けて、持ち物やリスク、山の地図の見方について学びました。
子どもたちは、持ち物について、山登りのリスク(熊、虫、滑りやすい、熱中症等)について考えながら、必要なものを自分たちで考えて、登山家の人と一緒に取捨選択しながら決めて行きました。また、山の地図の見方も最初は全く分からなかった子どもたちですが、等高線から傾斜が分かることや、地図記号から自分たちの現在地を把握することを学んでいました。
そして、いよいよ迎えた登山当日。登山本番は誕生山に登りました。ミニ登山の標高134mと比較して、誕生山は標高が501.5mです。4倍近くある登山を通して子どもたちはどのようなことを感じたのでしょうか?
登山口に早速熊出没の看板があり、山登りにはリスクがあることを感じながら、子どもたちは準備していた鈴を鳴らしながら登って行きました。
途中、川の水が流れていて、標高が高い部分と低い部分の川の水の温度を比較したり、「川があることで湿度が高いのかな?」「気温が下がっているのかな?」とつぶやきながら歩いていました。
山の頂上に近づくことで、傾斜が急になっており、滑るリスクについて考えながら、実際にPSPEで学んだバランスの取り方を意識しながら子どもたちと一緒に頂上を目指しました。頂上に近づくにつれて、少し耳が痛くなったり、軽い頭痛を感じる子どもも出てきました。子どもたちは、山の頂上付近は気圧が低くなることで高山病のリスクがあることを学んでいたので、自分自身の体の変化にも焦らずに対応している様子でした。
無事に頂上にたどり着いた子どもたち。頂上付近でも、子どもたちの会話で印象的だったのは「ポテチの袋が膨らんでる〜」「ちょっと耳が痛いな〜」「地上より頂上の方が涼しく感じるな〜」「頂上の方が太陽に近いのに、気温が低く感じるのはなんでだろう?」という気象につながる言葉が飛び交っていました。
学校にたどり着いて「体験を経験・探究」につなげることを目的に体で覚えている間に、早速リフレクションを行いました。ただ、山登りという体験をするだけでは、その時だけの達成感と感想で終わってしまうのですが、リフレクションをすることで、自分自身と向き合うことで「人々は生きるために自然に適応する」という、登山以外の他の場面でも応用(転移)できるきっかけをつくりました。
▼ See/Feel
・上にいくとだんだん体が軽くなった
・山の中の風がいつも感じている風と違った
・山の頂上付近で耳が痛くなっている人がいた
・気圧の変化でお菓子の袋がパンパンになっていた
・耳が痛くなった▼ Think
・山を登っていると体が熱くなり熱中症になる確率がある
・山登りでは色々な場面で技術が必要
・川があるから蒸し蒸ししたのかな?
・水分を取らないと熱中症になる
・山登りはバランス、体力、筋力が必要
・木が沢山あると影になって涼しい▼ Wonder
・なんで山の頂上付近に行くと体が軽く感じたんだろう?
・なんで風は上に向かって吹くんだろう?
・どうして頂上に行くと耳が痛くなるの?
・なぜ、気圧のせいでお菓子の袋は膨らむの?
・どうして頂上に行くほど涼しくなるのか?
・熊はどんなところを歩くのか?
・気圧って何?
自然の中で遊ぶには、多くのリスクと楽しさがあります。自然の中で安全に楽しく遊ぶにはどんなことが大切だと思いますか?
▼ 子どもたちが体感した概念や考え方
知識やどこが危ないことをわかっているとリスクの確率が低くなると思う
分からないものには近づかない
油断禁物
警戒心80% 楽しむ20%
危ないところと安全なところを分かっていたら楽しく遊べる
2人以上じゃないと危ない
リスクを確認して遊ぶ
天気予報(周辺、前日と当日と未来の天気)を確認する
最後は、今回は登山という経験を通して「自然のリスク」と「自然に適応するための方法」を体感したのですが、登山以外の場面でも応用できるようにリフレクションを行いました。
この夏休み、多くの子どもたちが岐阜以外の自分の慣れていない場所に行って、そこで自然体験のアクティビティをすると思います。そのときに、その土地にはどんな自然現象のリスクがあるのか、体験する自然アクティビティにはどのようなリスクがあるのかを今回の経験を元に応用して考えてみました。
是非、今回の経験を元に、何か自然体験のアクティビティをするときは、子どもと一緒にどんなリスクがあるのかを事前に考えて準備をして臨むことで、自然や自然災害に適応するために、リスクを回避できるスキルを育むきっかけになるのではないかなと思います。