フィンランドの学校に行こう!

フィンランドの教育を通して日本の教育を見つめ直す。

''他者を尊重する心''を育むフィンランドのインクルーシブ教育

「インクルーシブ教育を機能させるために必要な''何か''」

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フィンランドを含めた、ヨーロッパ諸国では、インクルーシブ教育を学校教育の中で推進する動きがあり、今学校教育の中でその基盤は作られつつあります。「何が、インクルーシブ教育を成功させている」というのかは、定義付けが難しいですが、大切なことは、「他者を受け入れ、一緒に学び合う学習環境が子ども同士で自然に生まれていること」ではないでしょうか?

フィンランドでは、子ども同士で「違いを受け入れ、子ども同士で自然と助け合う」場面が多くみられます。この他者を受け入れる感情は、少しずつ、育まれるもので合って、一朝一夕で育まれるものではありません。子どもは、私たち大人(教師)がどのようにして、子どもと関わっているのかを見ています。大人の姿を見て、子どもたちは育っています。

本日のブログでは、フィンランドの子どもたちが、インクルーシブ教育を取り入れることでどのように成長しているのか、また日本で取り入れるために必要なモノは何かについて、環境面と大人のマインド面についても合わせてまとめていきたいと思います。

 

▼インクルーブ教育についてまとめたYoutubemはこちらです!


フィンランドから学ぶインクルーシブ教育の本質とは?

 

1. フィンランドのインクルーシブ教育

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まずは、ある特別支援の先生が大切にしている言葉を紹介します。

「健常児も障害児も関係なくて、みんな一緒だよ。」

ハンディキャップを特別と捉えない考えをしっかり持っていました。これによって、子どもたちの、お互いを理解する心が育まれているように感じました。

① 導入から現在まで

1995〜2017年のすべての包括的生徒の間で強化または特別な支援を受けた包括的生徒の割合

1995〜2017年のすべての包括的生徒の間で強化または特別な支援を受けた包括的生徒の割合1995年、%1)

フィンランドの学校現場では、2011年からインクルーシブ教育を取り入れるようになりました。具体的には、日本と同じように、学級内にいるグレーゾーンと呼ばれる子どものサポートも現場の先生に求められるようになりました。
最初は、現場でも葛藤や課題が沢山あったという話を聞きました。例えば、特別な支援が必要な子が教室に入ってくることで、子ども同士のぶつかりが多くなり、自分の子が学習に集中できない、クラスを分けて欲しい等のような保護者からの厳しい言葉もあったみたいです。しかし、学校(先生)が保護者に子ども達が一緒に学ぶことの意義を伝え続けました。そして、6か月後、子ども達の中にも少しずつ変化が現れて来たことを現場の先生は話します。
子ども同士が教え合うようになった。
子ども同士が自然に助け合うようになった。
次第に、喧嘩が少なくなった。
大人(先生・親)が長い目で子どもの成長を考えて、子どもの成長を信じて待つことの大切さを感じました。しかし、これを支えているのがいくつかあると感じました。
① 学校、教師への信頼
② 子どものニーズに合わせた先生の配置
③ 教室環境の整備(合理的配慮)

次に、上の3つについて環境面の整備の観点からまとめていきたいと思います。

② 環境(人材・教室環境)の整備

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・学校、教師への信頼

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まず、フィンランドでは社会全体が学校、教師を信頼しています。その証拠に、フィンランドでは学校の99パーセントが公立の学校で、家から一番近い学校に子どもは通うことになっています。つまり、お金持ちの家の親は、全ての公立学校の質が高くないと困ります。フィンランドの先生は皆んな修士号を取得しており、保護者は先生一人一人を信頼しています。信頼している先生が、インクルーシブ教育の意義を伝え続けることで、時間をかけて新しい教育の価値が生まれることにも繋がっています。
そもそも、学校というものは、色々な境遇を持つ子が一緒に学び合うことで、様々な境遇を理解できる人を育てることを大切にしています。インクルーシブ教育もその一つに当てはまります。
 
・日本で実践するなら...
「信頼される教師とは何でしょうか?」
何でも保護者のニーズに応える教師?学び続ける教師?子どものことについて親身になってくれる教師?何でもしてくれる教師?答えは、一人一人違っていると思います。教師も学び続けることが必要な世の中に変わって来ているように思います。
・子どものニーズに合わせた先生の配置

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フィンランドでは、子どものニーズに合わせて教員の配置を行なっています。校長先生の役割として、学校に何人の支援が必要な児童生徒がいるのかを報告し、ニーズが必要な生徒の数に応じて、行政から予算が下りることになっています。一律で、アシスタントの先生を雇用するのではなく、必要に応じて雇用することで、無駄なく適切に先生の配置ができていました。よく、フィンランドでは、クラスに2.3人の先生がいるという情報が流れているのですが、担任の先生が1人に対してアシスタントの先生が配置されているイメージです。日本でも、TAという言葉がありますが、定着していません。多くは、ボランティアで不定期で配置されることから、計画的に支援をすることが難しく、返って学級担任の負担になっている場合もあります。TAを学校現場のニーズに合わせて雇用をすることで、子どもたちにとっても安心して学べる環境に一歩近づくのではないでしょうか?
 
・教室環境の整備(合理的配慮)

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ここからは、フィンランドの学校や教室の中の様子についてまとめていきたいと思います。フィンランドでは、不登校は殆ど存在しません。大きな理由として、不登校の原因を本人や先生、保護者に求めるのではなく、その子に合わせた環境を整えるという考え方が根付いているからです。これによって、不登校問題に対して責任転嫁が生まれるのではなく、真っ先に「この子に合った学習環境はどうしたらいいのか?」子どもに寄り添った支援が始まります。
そうして、少しずつ子どもの学びに寄り添った学習環境が生まれるようになりました。一人一人の子どもが学びやすい環境を追求していった結果生まれたのが、今のフィンランドの教室の中にあります。恐らく、原因を子ども本人に求めていたら、学習環境もここまで発達しなかったと思います。一人一人の子どもに寄り添い、教師がアイデアを出し合い、デザイナーが開発していく。これによって、今は子どもにとって、安心して、学びやすい環境を整えることで、公立の学校現場で殆どの子どもの学ぶ機会が保障されるようになりました。
 
では、実際に教室の様子を見てみましょう!

▼状況

クラスの中で、様々なニーズを持った子どもたちが一緒の空間の中で学習をしています。しかし、日本のように、特別支援の子どもが授業中に目立っていませんでした。どのようにして、1つの空間の中で、様々なニーズのある子どもの対応をしているのでしょうか?

例1:周りの音が気になる子

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イアーマスク(ヘッドフォン)が、周りの音が気になる子には配布されていました。どうしても、問題を解く時などに、聴覚過敏の子は周りの音が気になってしまいます。しかし、この秘密道具があることで、子どもは集中してみんなと同じ環境で学ぶことができます。私たちにとって、コンタクトレンズのような役割ですね。

例2 : じっと座っていることにストレスを感じる子

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バランスチェアーに座ることで、少し体を動かしながら授業を受けます。この椅子に座るには、体全体でバランスを取る必要があり、筋肉を動かすことで、授業に集中することができます。

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同じような目的でバランスボールが置かれていることもあります。このように教室には、様々な学習道具が置かれています。子どもは、低学年の頃から、色々な方法で学び、自分が集中して、安心して学べる環境を理解していきます。そして、大人になってもリラックスした姿勢で学ぶことを大切にしています。

例えば、フィンランドの図書館はこのような感じです。

関連画像

こんな環境があれば、勉強が嫌いな子も好きになるきっかけになるかもしれません。私たち大人は、「この子どもは勉強が嫌い」と決めつけることがあると思います。しかし、本当に学ぶことが嫌いな人はいないとフィンランドの先生は話します。「人間は学びたい動物である。学びたい気持ちを奪っているのは、環境であると。」もしかしたら、学ぶことは好きだけど、周りの音で集中できない子、視界の情報で集中ができない子、じっと座ることが嫌いな子。別に原因があるかもしれません。まずは、その子が学びやすい環境を子どもと一緒に探してみませんか?

例3 : 集団の中にストレスを感じる子や、周りの情報に注意が向いてしまう子

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教室の中に、周りの世界を閉ざすソファーも置かれています。このソファに座ることで、自分だけの世界に入ることができ、集団の中にストレスを感じる子どもも落ち着いて授業を一緒に受けることができます。

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他にも、教室の中に移動式の壁を並べて、自分だけの空間を作って学ぶ子もいます。

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低学年では、自分で動かせるサイズの小さな壁を置いて授業に参加している子もいました。

例4:学習に付いていけなくて、不安を感じている子ども

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もし、勉強が分からなくて、教室の中にいるのがきつくなったら、教室の近くにあるこういった個別の空間で個別の指導を受けることができます。そして、理解できたら、教室に戻るなどして、すぐに教室に戻れる環境を作っていました。

今回訪れたフィンランドの小学校の特徴は「ユニバーサルな学びの空間」の中で「一人一人の子どもを尊重した」授業を行なっていることです。先生も子どもにもゆとりがあるので、学校の雰囲気もとても落ち着いていました。

 

2. 子どもの成長エピソード

ボードゲーム事件

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小学5年生のある男の子と私の物語を紹介します。
私が初めて、その男の子と出会ったのは、英語の授業でした。しかし、私が教室に入った瞬間に彼は教室を走って出ていきました。私とこの男の子の物語はここから始まりました。
 
最初は、1対1では話すことはできましたが、男の子は笑顔は見せてくれません。
 
でも6ヶ月が経ち、少しずつ私と男の子の関係に変化が生まれ始めます。彼と、1番に学校で英語を使って話すようになりました。彼は、英語がとても上手な男の子です。クラスで、唯一英語のテストで満点を取る力があります。
この日も一緒に座ってカレーを食べました。
 
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* この日の給食はカレーでした。
 
そして私たちは、カレー、肉が大好きという共通点も見つかり話も弾みます。
私は、彼と関わるうちに、この学校で1番英語でコミュニケーションが取れると思いました。私は、何か言葉に関して困ったことがあると、彼に頼るようになりました。
 
少人数でいると他の生徒と何も変わらない。
むしろ彼の英語のコミュニケーション能力には驚かさせられます。
 
そしてカレーを一緒に食べた4時間目の技術の時間です。
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奥に見えるのが「ヒートグルーガン」です。私は、使ったことがなかったので、使い方も英語を使って丁寧に教えてくれました。本当に英語力と優しい心に感動し、私自身も一人の人間として受け入れて貰い嬉しく思っていました。
 そして作品を作り終えた子どもたちは別の教室であることをしています。
 
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棚にはボードゲームがずらりと並んでいます。フィンランドの子どもたちはボードゲームを通して、銀行の仕組みやクレジットカードの仕組み、経営の模擬体験をします。

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日本で人気の人生ゲームのようなものです。これがなかなか頭を使うゲームです。お金の投資について私自身も学ぶことがありました。

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もしかしたらギャンブルの模擬体験をしているのかもしれません。ここでお金を投資したらどうなるのか、ボードゲームを通して色々な世界を学んでいく子どもたちです。
 
そしてゲームも終盤を迎えた頃。(1時間程経過...)
あることが起きました。
私は驚きました。

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先ほどの給食を一緒に食べた男の子が急に教室に入ってきて、紙飛行機をボード上に
投げつけ、ボード上のものがバラバラに散らばりました。
 
これには私も驚きました。
 
しかし、私が驚いたのは彼の行動ではなくボードゲームで遊んでいた子どもたちです。
 
彼らは全く嫌な顔をせず、ただひたすらに動きを止めていました。
そして、男の子が教室を出ていくと、落ち着いて元の状態に戻します。
 
そして何事もなかったようにゲームが再開しました。
 
私は驚きました。
喧嘩が始まると私は思っていました。
舌打ちもにらみ合いもありません。
日本だったら、取っ組み合いになりそうです。
 
私は子どもたちに尋ねました。
 
『何で怒らなかったの?』
 
子どもたちは、ささやかな声で答えます。
 
『彼はADHDなんだよ。』
 
優しく教えてくれました。
 
そして教室に戻ると彼は絵を描いていました。
そして私が彼の元に近づくと、私の前で彼はこう書きました。
 
『私はADHDです。』
 
私はまた驚きました。
彼自身も自分自身と本当の意味で向き合っていました。
自己理解が進んでいるからこそ、自分自身の突発的な行動も受け入れられ、他者とも安心して関わることができていました。
 
後から聞いた話によると、彼は友達に謝っていたみたいです。
 
私は、教育学部で学んでいたので、ADHDについては理解していたのですが、そもそもこのような障がいがあることを知ったのは、大学生に入ってからでした。この知識って先生になる人だけが知るものだと思っていたので、本人や周りの子どもも理解していたことには驚きました。
 
もちろん子どもにもよると思いますが、私の人生の中でここまでお互いを理解して、生活している学校の環境に初めて遭遇しました。
 
日本では、まだまだ障がいを無意識に排除する考えが強いように感じます。恐らく、障がいに対しても正しい理解が進んでいません。まずは、私たち大人も、障がいに対して正しく理解することで、日本の社会も「他者の違いを受け入れられ、生きやすい社会」に近づくのではないでしょうか?
 
「他者を尊重する心を育む」インクルーシブ教育は、私たちの生活もよりよくしてくれると子どもたちが教えてくれました。

② 階段を歩く男の子を助ける男の子

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階段がうまく降りれない障害児の男の子がいました。そして隣には、先生ではなく友達の姿がありました。

耳を澄ましてみると、「1.2.1.2.1.2.1.2」と掛け声と共に、一緒に息を合わせて降りてあげる健常児の友達の様子を見ました。そして、階段を下り終えると、「すごい!ハイタッチ」と会話を交わして、タッチをしていました。助けた男の子にとっては、障がいという隔たりがなく、一人のお友達として手を差し伸べていました。

私たちも、苦手なことがあるように、一人一人得意・不得意があり、多くの人の支えを借りながら生きています。障がいがあるからではなく、一人の人間として関わり、自然に支え合える環境が広がっていければと思いました。

3. 日本でインクルーシブ教育に必要なもの

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日本でできることは大きく2つあると思います。

① 一人一人に合った環境を整えること(予算を増やす)

② 子どもと関わる大人のマインドを変えること。 

今日本でもインクルーシブ教育は少しずつ取り入れられています。しかし、インクルーシブ教育が始まったことで、現場の先生の負担は多くなり、一人一人に合った学習環境がまだ整っていない現状があります。日本では、その原因が、先生に向けられます。そして、責任を向けられた先生は、子どもに原因を向けるようになります。責任が転嫁されていくだけで、最終的に苦しんでいるのは子ども自身です。子どもには、何も責任はありあせん。

子どもには、一人一人に学びやすい環境があり、学ぶペースがあります。どうして、習い事は一人一人のペースが尊重されるのに、勉強だけは、同じ方法で皆んな同じペースで進んでいくのでしょうか?

原因を子どもに向けている限りは、日本の教育環境は前には進まないと思います。今、教育現場の中でうまくいっていないことを批判し、ネガティブに捉えるのではなく、一人の子どもが安心して学ぶ環境が生まれるチャンスと捉える人は少ないです。子どもは、教室の中で沢山のサインを出しています。しかし、多くのサインは見逃され、子どもは次第にこの場にいることがきつくなっていきます。

ビジネスの世界でも、上手くいかない時は、どうしたら上手くいくのかを考え、よりよいサービスが生まれていきます。教育現場でも同じではないでしょうか?

よりよい教育を子どもたちに届けたいなら、私たち大人がマインドを変えていく必要があります。

大人の責任転嫁ではなく、どうしたらその子が安心して学べる環境が生まれるのか?

一緒に考えていけたら嬉しいです。

 

本日のブログでは、 ''他者を尊重する心''を育むフィンランドのインクルーシブ教育についてまとめてみました。

いつもここまで読んで頂き、嬉しく思います。

 

モイモイ。

 

PS.

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