肯定的な「自尊感情」を育むフィンランドの性教育
「性教育と聞いてあなたはどんな印象を受けますか?」
日本で馴染みのない「性教育」ですが、実際にフィンランドでは、何を目的とし、どのようにして性教育が行われているのでしょうか?私自身、日本の学校教育の中で学んだ性教育の知識は殆ど皆無でした。そこで、今回のブログでは、フィンランドの幼児教育からの性教育について、包括的にまとめていきたいともいます。
また、こちらの動画では北欧で性教育留学をした方との「北欧の幼児期からの性教育」についてまとめてあります。
1. 性教育の目的
まずは、フィンランドの性教育の目的に関してまとめてみたいと思います。
「教師目線で、性教育における最も重要な教育的目的とは何か?」
責任が持てるように教育をすること、そして性教育に関して正しい事実を提供すること。
また、フィンランドにおける性教育は、包括的な性教育を意味しています。
「包括的な性教育(Comprehensive sex education)とは?*引用文献」
包括的な性教育は、学校内外に関わらず、「権利概念」に基づいたジェンダーにフォーカスしたアプローチです。それは生涯を通じて継続的に行われ、若者の年齢に応じた情報を提供していきます。
包括的な性教育には、人間の発達、避妊方法、出産、HIVを含む性感染症(STI)に関する情報等が含まれます。
しかし、それはまた、若者が性と生殖や健康に関するポジティブな価値を探求し、育成するのを助けます。この教育には、家庭生活、人間関係、多様性、文化、セクシャルアイデンティティー、境界線の重要性、自尊感情、肯定的なセクシャリティー、身体の肯定に関する対話が含まれています。
総合すると、これらは、若者が批判的思考、コミュニケーションスキル、責任ある意思決定、敬意を持った行動を促す自尊心とライフスキルを育むことに役立ちます。
このように、フィンランドでは性教育に限らず包括的にアプローチしていくことを大切にしています。例えば、自己肯定感の育み方、キャリア教育、英語教育等、子どもの発達段階に応じて時間をかけて少しずつ育んでいくことを大切にしています。
2. フィンランドの性教育
・幼児期における性教育(着目!)
- 学校における取り組み
学校における幼児期の性教育に関してですが、プレスクール(就学前教育)では、特別に性教育のための時間を設けていませんでした。しかし、性教育に繋がる「種まき」は教室の中にいくつかありました。
例えば、幼児期における性教育では以下のような目標を掲げています。
1. 多様性、平等、自分の身体を尊重すること。
2. セクシュアリティと愛は良いものであること。
3. 自分を守る方法を知ること。
例えば、1の多様性に関してですが、フィンランドの幼児期のおもちゃに次のようなものがあります。
日本だと、日本人の人形が中心に置かれていると思いますが、幼児期の頃からこの世界には色々な人種の人が存在していることを「遊び」の中で知ることで、「違い」を受け入れる心を育んでいきます。
また、2のセクシャリティーに関してですが、子どもは少しずつ「自分はどこの世界から来たのか?」について興味関心を示すようになります。
「先生は子どもにどのように説明するのか?」
ここに正解はありませんが、大事なことは、大人が恥ずかしがらずに子どもの発達段階に応じて、言葉を選んで説明してあげることです。この先生は、実際に妊娠している先生のお腹を指差して、お母さんのお腹から生まれて来たことを話したみたいです。
- 家庭での取り組み
では、家庭ではどのようにして、子どものサポートをすることができるのでしょうか?例えば、お風呂に入るときに、大人は子どもに大切なことを伝えることができます。
まず、子どもが自分で体を洗うことをサポートすることができます。また、彼らの性器を管理する方法や、それらがあなた自身のプライベートゾーンで大切な場所であることを教えることもできます。また、ありのままの自分であることが素晴らしいことも伝えることも大切です。
- 教材の紹介「赤ちゃんはどうやって誕生するの?」
本日紹介するのは、フィンランドの学校の先生がオススメするこちらの本です。この本の中では、主に以下のことについて、分かりやすく子どもの言葉でまとめてありました。
(ストーリー)
この物語では、赤ちゃんがどのようにして誕生するのかを、男女の出会いが恋に発展し、結婚し、出産するまでの流れについてまとめてあります。
・赤ちゃんがどのようにして誕生するのか?
・受精卵のでき方
・全ての女性が子どもを生めるとは限らないこと(体外受精について)
・恋の出会いから結婚・出産まで
・子どもを作る方法(愛を育む=SEXと呼ばれていること)
・双子や三つ子が生まれる可能性もあること
・家族の多様性について
・帝王切開で生まれる場合もあること
詳細の物語(前編日本語訳)はこちらのブログで消化してあります。
▼以下の画像をクリック
・学齢期における性教育
- 学校における取り組み
以下のポスターでは、小学校段階における性教育の目標について発達段階に応じて英語でまとめてあります。(こちら)
このポスターの中で最も大切なことについて、フィンランドの先生に聞いて見ました。性教育で大切なことに一つは「自分を守ること。」性別に関わらず、誰もが自分を守らなければならない状況になる可能性があります。その時に、恥ずかしがらずに、自分の身を守れるかどうかが重要だと話しています。
▼自分を守る方法
(状況)もし、誰かがあなたに触ってきて不快な気持ちになった場合
① 「嫌」としっかり伝えること
② 逃げること
③ 大人に相談して、助けを求めること
・青年期における性教育
- 学校における取り組み
フィンランドでは、中学校から「Health education」という教科の中の一部で性に関する知識を学ぶ時間が必須であります。私が、フィンランドで高校教師として勤めはじめて、体育の先生と話をする時間がありました。
(性教育に関するエピソード)
先生:「今日、中学2年生の授業で、コンドームの正しい使い方に関する授業をしてきたけど、日本ではいつ、どのようにしてコンドームの正しい使い方を勉強するの?」
私 :「日本の学校では、コンドームの使い方に関して等、正しい性に関する知識を学ぶ機会はありませんでした。」
先生:「どうして?」
私 :「性教育を行うことで、若者の性行為を助長すると考えているからです。」
先生:「性教育を行うことで、若者の性行為を助長させることはないし、正しい知識を教えないで、ネット上の偏った、誤った知識で若者が性行為をする方がリスクが大きいと考えているよ。」
私 :「なるほど・・・」
もちろん、フィンランドでも性教育を行うことに恥ずかしさを感じている生徒はいます。(特に男子生徒)しかし、小グループで学習を行うことで、性に関してオープンに話していい安心感を教師自身が作り、対話をベースとした授業を行なっていました。では、実際に教科書を通して、中学生がどのような性教育を受けているのかをみていきましょう。
- 教材(教科書)の紹介
▼こちらが中学生の教科書のトピックです。(一部抜粋)
健康とは?
-健康の決定要因、ライフスタイルと健康、健康な生活、健康のための食物、栄養
健康のための運動
-生命のための運動、睡眠のための運動
病気
-衛生状態、日差しと風邪、対症療法、病気の予防と管理、一般的な伝染病
中毒と薬物乱用
-喜びと中毒、喫煙は健康を危険にさらします
-アルコールの副作用薬物は問題を引き起こします
自己認識
-感情、社会的スキル対人関係、家族の重要性、感情力
セクシュアリティの思春期の変化の出現
-出現するセクシュアリティ、思春期の変化、セクシュアリティの複数の形態
-責任あるセックス、予防、性感染症の予防、妊娠
健康サポート
-一緒に作成された安全性、応急処置、交通ルール
水と氷の安全
-食品と健康、食事の重要性、さまざまな食事、体重管理は健康をサポート
精神的健康
-資源としての精神的健康、仕事としての精神的健康、摂食障害
民族病
-フィンランドの民族病、心血管疾患、筋骨格障害、糖尿病、アレルギーおよび喘息
健康
-薬物のない健康、禁煙の価値、社会のアルコール、薬物の危険性
社会の健康
-健康への環境の影響、メディアの健康、世界の健康
ここでは、日本の保健体育の授業では学ばない「性教育」のトピックについて一部紹介していきたいと思います。
こちらは、「避妊」に関して教科書で学んだ後に、実際にロールプレイを通して考える問題です。
日本の性行為をしている若者は、実際に何問正解できるでしょうか?
(状況)Meer(彼女)とWille(彼氏)の物語を読み、質問に答えてください。 MeeriとVilleはしばらくの間付き合っています。
① 徐々に関係が深まり、彼らは性交の準備ができていると感じています。 Meerは避妊薬を買うのが恥ずかしい。 Willeの意見では、Meerは処女なので、最初の性交では避妊の必要はありません。
Q:Villeは正しいですか?
② Villeは自宅でコンドームパッケージを見つけ、それを使用できると提案します。 コンドームパッケージには、「消費期限」が1年前に過ぎていることが記載されています。
Q:Willeが見つけたコンドームを使用することは可能ですか?
③ Meeriはコンビニに行って、新しいコンドームパッケージを購入します。 彼女はコンドームを入手するのが男性の仕事だと思っているので、彼女は本当に恥ずかしいと思っています。
Q:Meerに同意しますか?
④ ある夜、MeeriとVilleは徐々に性交に進みます。 彼らはMeerが買ったコンドームを持ち出します。
Q:コンドームはどの時点でペニスに置かれるべきですか?
⑤ 性交後、MeerとVilleは、セックス中にコンドームが破れたことを発見します。 彼らはこの状況を恐れています。
Q:MeeriとVilleは、Meeriが妊娠しないようにするために何ができますか?
⑥ Meerは、セックスをするに当たり、性感染症にかかることを恐れています。 Villeは、Meerに他の女の子とセックスをしたことがないことを話しています。
Q:MeeriがSTDを彼に感染させた可能性はありますか?
他にも、この性教育の単元では、性の多様性についてもしっかり学習していました。LGBTについて正しい知識を持っている日本人はどれくらいいるのでしょうか?
- 地域における取り組み
フィンランドでは、「ユースセンター」という30歳以下の若者(学生)が気軽に集まれる居場所が国内全土で広がっています。ここは、男女の若者が自由に集まる空間であるので、定期的に性に関する教育も行なっております。詳しくは、また実際に現地でリサーチしてまとめたいと思います。
3. 日本の性教育との比較
・日本の性教育と異なる点は何か?
日本の性教育と異なる点は、誰もが性教育に関する正しい知識を学校で学ぶことができ、大人も正しい知識を子どもに伝える必要性を感じている点です。大切なことは、性教育を必須化することよりも、「なぜ性教育を行う必要があるのか」を子どもと関わる大人が理解していることだと思います。
日本では、性教育を学校で行うことに対してネガティブな印象を持っています。理由としては、性教育を学校で行うことで若者の性行為を助長するのではないかと恐れているからです。
しかし、フィンランドの保健体育の先生と話をした時に、「性教育を行うことで、若者の性行為を助長させることはないし、正しい知識を教えないで、ネット上の偏った、誤った知識で若者が性行為をする方がリスクが大きいと考えているよ。」という意見を聞きました。まずは、子どもと関わる私たち大人一人一人が、正しく性に関する理解を深めることが一歩に繋がると感じています。
・なぜ、フィンランドの性教育は先進的なのか?
- 時代に合わせて変化し続けている点
フィンランドでも、かつて学校における性教育はネガティブなものと捉えられていました。しかし、正しい知識を持たないまま大人になり、性行為をすることで性感染症にかかる若者が増加した背景がありました。そこから、性教育の必要感が高まり、フィンランドでも「包括的な性教育」をするようになったと現場の先生が話をしてくれました。もちろん、人々の価値観や考え方を変えるにはものすごいエネルギーが必要だと思います。しかし、フィンランドでは、対話を通して少しずつ今の教育観を国民全体で育んできています。この、時代に合わせて変化し続けるフィンランドの国民性から学ぶことがたくさんあると感じています。
- 包括的に性教育を行なっている点
私たちが性教育と聞くと、「生物知識や危機管理」だけをイメージすると思います。しかし、実際の性教育の目的は、「相手や自分を大切にするための尊厳教育」でもあるとフィンランドの学校現場の先生は捉えています。相手や自分を理解するためには、私たちは「多様性」についても理解を深める必要があり、これらはゆっくりと育まれていくものです。
そこで、日本のように、小学校高学年からの保健体育の授業で部分的に学習するだけではなく、実は、生まれた時から性教育は始めていく必要があります。でも大切にしていることは「慌てないこと」一人一人、心身の発達には差があります。一人一人に合わせて、その子と関わる大人が日常的に伝えていくことが大切だとフィンランドの大人は考えています。
本日のブログでは、フィンランドの性教育について日本と比較しながらまとめてみました。歴史を振り返ると、フィンランドでも、日本と同じように性教育に関してネガティブに捉えている時期もありました。そこから、改めて学校における性教育の必要感から時間をかけて、これまで育んできました。私は、そこに親近感を感じており、フィンランドの時代に合わせて変化し続ける姿から学ぶことがあると感じています。
ここまで読んでいただきありがとうございました。
モイモイ。
PS.
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